2008年8月1日金曜日

asahi shohyo 書評

身体と政治 [著]ロイ・ポーター

[掲載]2008年7月20日

  • [評者]唐沢俊一(作家)

■絵画から読み取る医療のイメージ

  例えば「外科医」と言えば反射的に手塚治虫の『ブラック・ジャック』を連想してしまう日本人は少なくない。漫画や映画など、ビジュアル面からわれわれが受 けるイメージは非常に強烈だ。ならば逆に、ビジュアル的な医者や病人の描かれ方の歴史をたどれば、その時代ごとの医療に対するイメージが見えてくるはず だ。

 本書はそれを実践したもので、02年に55歳で急逝した、近代ヨーロッパ社会史・医学史研究の第一人者、ロイ・ポーターの亡く なる前年の著作であり、健康法と医療の歴史について多数の著作がある彼が、初めて絵画から過去の時代の人びとの思考を分析しようと試みた成果である。

 17世紀から20世紀初頭にかけ、主に風刺画や戯画に描かれた医者たちは尊大であったり、人の体を実験動物のように扱ったりと、あまりいい描かれ方をされていない。一方で病人たちもまた、痛風なのに美食をやめない金持ちなどが、皮肉な目で描かれている。

 著者が、そういった絵に隠されたメッセージを指摘しつつ、当時の風刺画家にとり医者と病人の関係は国家と国民の関係のアナロジーであった、というところにまで論を進めているのは慧眼(けいがん)というほかない。改めてその早世が惜しまれる。

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 目羅公和訳

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