2008年8月1日金曜日

asahi shohyo 書評

小林多喜二名作集「近代日本の貧困」 [著]小林多喜二

2008年7月30日

〈出版社からのコメント〉

 『蟹工船』だけじゃない、こっちの多喜二もエキサイティング!

『オルグ』『地区の人々』『残されるもの』『疵(きず)』『失業貨車』『山本巡査』『銀行の話』など、腐敗権力と闘う全10編

 《私が——この人間である私が、実のところ、一つの「人形」でしかなかったということが、そこで頭のてっぺんから、グァンと、よォく分らされたのであります。》

 (『山本巡査』より)

■濃厚な味と匂いのある作品群

 日本中で『蟹工船』が読まれているという光景を、いったい何人の人が予想しただろうか。小林多喜二の描いた世界なんて、すでに遠い昔話だと、誰もが思っていた。が、現代日本の若い人たちは、リアルを感じながら読んでいるのだという。

 本書では、なかなか一般の目にふれることのない小説・評論・戯曲を集めた。『蟹工船』ではじめて多喜二と出会った人は、ぜひ他の作品にも目を向けてほしい。どれも濃厚な味と匂いのある作品ばかりである。

 登場人物たちが、歪(ゆが)みきった社会との闘いに人生を燃焼させる姿は感動的だ。そして、この作品が昔話ではなくなってきた日本の行く末に、不安をおぼえる。

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