2008年8月2日土曜日

asahi shohyo 書評

こんな日本でよかったね—構造主義的日本論 [著]内田樹

[掲載]2008年7月25日夕刊

■構造主義的「モノの見方」のススメ

  社会問題について世間で言われていることが、何となくしっくりこない場合がある。本書の著者は、それに対して「こんな見方もできるよ」と、ほんの少し視点 をずらす方法を教えてくれる。構造主義的思考を駆使する哲学者だが、奇異な論を展開するわけではない。文章は易しく、読み終えるといつしか新たな視点を獲 得しているのである。

 たとえば、格差社会の「格差」の中身について。結局のところ格差とは「お金」であり「年収」のことなのだ。だから、格差社会の 是正とは、こうした拝金主義を推し進めることでしかない、と。あるいは、適職という概念について。「自分の適性に合った唯一の仕事」などというものは幻想 でしかなく、人生とは偶然とミスマッチによって進むのだと諭してくれる。そんな幻を追って転職を繰り返すよりは、今の職場を楽しく有意義に変えていくほう が、どれほど有益なことか。

 あとがきで著者が書くように、私たちの目にはウロコが入っていて、それは簡単には外れない。それぞれに違った世界が見えてい る。ならば、お互いの歪(ゆが)んだ世界を突き合わせれば、より現実に近づいていけるはずだ。他人とのコミュニケーションとは、そうしたことを目指してい るのだと思う。

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