2008年8月3日日曜日

asahi history literature Genji monogatari story shahon 54 manuscript

「源氏物語」全54帖の写本 発見相次ぐ

2008年8月2日

  「源氏物語」千年紀の今年は、全54帖(じょう)がそろった写本の発見が相次いでいる。先月、鎌倉時代中期のものとみられる「大沢本」の存在が明らかにな り、さらに、室町時代中期に書き写されたとみられる「飯島本」も初めて一般公開されている。いずれも、失われた平安時代の本文を伝えている可能性がある別 本(べっぽん)を多く含む貴重な写本だ。

 54帖のそろい本は主なものだけで30点以上あるが、別本が多い写本となると39帖ある重要文化財の「陽明文庫本」(鎌倉時代)など数少ない。

 大沢本は明治末に国学者の小杉榲邨(すぎむら)が「我が世の珍といふべき冊子」と鑑定。国文学者の池田亀鑑(きかん)も調べたが、戦後は行方がわからなかった。

 現在の所蔵者の依頼で調査している国文学研究資料館の伊井春樹館長によると、別本は28帖ある。伊井さんは先月、堺市で講演し、「大沢本はほかの別本とかなり異なる本文も持っており、『源氏物語』の新しい世界が見えてくるのではないか」と述べた。

 飯島本は、古筆研究で知られる書家の故飯島春敬(しゅんけい)の収集品。池田が調査し「飯島春敬氏蔵空蝉(うつせみ)の巻1 帖」と記録、「空蝉」しかないと思われていた。中央大の池田和臣教授(平安文学)が昨年、全部そろっていると知って調査を始めた。現在は飯島が設立した書 芸文化院が所蔵する。

 池田さんによると飯島本は各帖ほぼ縦19センチ、横15センチ。15〜16世紀の歌人冷泉為和(ためかず)らが書写したらしい。半数近くの帖が別本とみられる。東京・六本木の国立新美術館で3日まで開催中の特別展「春敬の眼(め)」で展示されている。

 池田さんは「別本の研究によって、鎌倉時代に藤原定家が『源氏物語』を校訂する一段階前の本文にたどりつける可能性はある。し かし、平安時代の本文の復元はまず不可能だろう。平安時代の物語の本文は写した人が好きなように手直ししたと考えられる。その結果、多様な本文が生まれ、 現在の混沌(こんとん)とした本文状況を作り出している」と話す。(編集委員・白石明彦)



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