2008年8月26日火曜日

asahi shohyo 書評

見えないアメリカ—保守とリベラルのあいだ [著]渡辺将人

[掲載]2008年8月24日

  • [評者]久保文明(東京大学教授・アメリカ政治)

■型にはまらない対立軸を描写

  アメリカについて、日本人は十分に知っていると思い込みがちだ。しかし、観光地、ビジネスの現場、大学などで日本人がよく出会うアメリカ人とは異なるアメ リカ人も存在するし、場合によるとそちらの方が多数派であったりする。04年にブッシュ大統領を再選させたのは、南部や中西部の農村地帯に居住し、教会に 熱心に通う人々であった。

 優れたアメリカ論を複数公刊している著者は、ヒラリー・クリントンの上院議員選挙でアジア系アメリカ人を対象にした集票活動を担当した経歴を持つ。その経験と、最新の学術的研究成果も踏まえた上で展開されるアメリカ論は、深みがあり含蓄に富む。

 アメリカでは、小さな政府を目指し、宗教的価値を重視し、力の外交を支持する人々が保守であり、リベラルはその反対である。近 年、この対立パターンは固定化しているが、本書はそのような型にはまらないさまざまな対立軸、「アカデミック」保守と「労働者」保守の違い、イラクで戦死 した同性愛兵士をめぐる宗教保守派と愛国者の対立、右派だけでなく、アニマルライツ活動家など左派がもつ原理主義などを描写する。民主党の中にも、高学歴 リベラルとウォルマート好きの労働者が存在する。これはまさにオバマとクリントンの支持層に対応しているのである。

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