2008年8月1日金曜日

asahi shohyo 書評

里山ビジネス [著]玉村豊男

[掲載]2008年7月27日

  • [評者]勝見明(ジャーナリスト)

■「本物の生活」を見て楽しむ

 子供時代、魚屋や畳屋の前で大人が仕事をする様子を飽かず眺めた記憶はないだろうか。人には本来、魚をさばく、畳を織るといった動詞の世界に引かれる本質があるようだ。

 文筆家である著者は、バスも通わない信州の里山に個人でワイナリーを立ち上げた。訪れる客たちは、そこで繰り広げられる多様な 動詞を見て楽しむ。レストランで食事をしながら見上げると、目の前の野菜畑やブドウ畑で若手スタッフが汗を流して立ち働いている。1階下のワイン工場をの ぞき込めば、ワインづくりに励む姿が目に飛び込む。「ミュージアム農場」と著者は呼ぶ。

 屈指のリゾート地、軽井沢から体を壊したのを機に91年、46歳で無名の地での農園づくりへ。著者自身、どこに住むかという名 詞の世界から、何をするかを問う動詞の世界へ転じた。本書では、17年間積み上げてきた動詞の数々が語られる。斜面を開墾する。野菜を育てる。ブドウを栽 培し、ワインを仕込む。

 4年前、摘み立て野菜を使った料理と自家製ワインで客をもてなす夢を実現する。収支計算や資金調達は後手に回ったが、毎年約5万人が来店。人の本質に沿ったビジネスは数字が後からついてくるのだろう。

 提案するのは名所名物ではなく本物の生活を「生きたミュージアム」として楽しんでもらう「生活観光」だ。地域再生の方向性をエッセー風に語る一言一句が地に足がついて、心に届く。

表紙画像

里山ビジネス (集英社新書 448B)

著者:玉村 豊男

出版社:集英社   価格:¥ 714

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