2008年6月5日木曜日

asahi shohyo 書評

経済は感情で動く [著]マッテオ・モッテルリーニ

[掲載]2008年06月01日
[評者]勝見明(ジャーナリスト)

■心の動きを手がかりに

 豚肉の表示で「赤身80%」と「脂肪分20%」では中身は同じでも、後者ではお客は逃げる(フレーミング効果)。同じ1万円でも得る喜びより、損する失望感の方が大きい(損失回避の原則)。とかく人間の経済活動は感情や心理に左右される。

 経済学に心理学を導入し、注目される行動経済学の入門編だ。標準的な経済学では超合理的・超自制的・超利己的に行動する経済人(ホモエコノミク ス)を前提にするが、著者によれば、それはTVドラマ「スタートレック」に登場するスポック(冷静沈着なバルカン人)くらいで、現実には存在しない。生身 の人間は論理とは別に、直感で近道的に解に到達しようとする。そのとき感情が介入する。

 著者はイタリア人経済学者。クイズに答えながら法則や理論を学べる構成はラテン流か。ただ読み進むうちに、自分の能力への過信が成功の確率を過大評価する「支配の錯覚」など、「陥りやすい罠(わな)」が次々示され、自戒の大切さを実感させられる。

 さらに読み進むと、最新の脳科学と合体した神経経済学の領域へ。脳内の感情にかかわる部位と合理的判断にかかわる部位の働きを調べた結果、合理性と感情は対立ではなく、協力し合うことが判明したという。

 「合理的な人とは感情のない人ではなくて、感情の操縦方法をよく知っている人」といった行動経済学的な指摘が、不確実性の時代の意識の持ち方を示して役立つ。

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 泉典子訳

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