2008年6月18日水曜日

asahi shohyo 書評

疑似科学入門 [著]池内了

[掲載]2008年6月15日

  • [評者]香山リカ(精神科医、立教大学現代心理学部教授)

■なんでも信じやすい人は、ぜひ

  霊能力者と名乗る人は科学的には見えないが、「科学では証明できない世界が見えている」と信じる人は後を絶たない。一方、あたかも科学的な裏付けがあるか に見せかけつつ、効果が証明されていない健康食品などを高額で売る人もいる。両者は一見、異なって見えるが、非合理的なものを疑いなく信用させるという点 では共通性がある。著者は前者を第一種疑似科学、後者を第二種疑似科学に分類して、それを信じてしまう人間の心のからくりを解き明かす。

 さらに著者は、いまホットな環境問題、食の安全をめぐる問題なども、真正科学と疑似科学のグレーゾーンに位置する第三種疑似科 学である可能性を指摘する。もちろん、これらは人類の重要課題なのだが、たとえば「地球温暖化」が挨拶(あいさつ)代わりになるとそれ以上、科学的に検証 するのをやめてしまうクセが人間にはある。「思考停止は疑似科学の入口」と著者は言う。

 この手の疑似科学には「信じるのは勝手でしょ」という強力な理屈があり、それを覆すのは実はむずかしい。著者も疑似科学の有害 性の説明には苦労しているようだが、アヤシイものを信じることに慣れれば「ご託宣を待ち望むように洗脳されていく恐れがある」というあたりが重要なのでは ないか。なんでも信じやすい人に読んでほしい。

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疑似科学入門 (岩波新書 新赤版 1131)

著者:池内 了

出版社:岩波書店   価格:¥ 735

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