2008年6月18日水曜日

asahi shohyo 書評

メディアとプロパガンダ [著]ノーム・チョムスキー

[掲載]2008年6月15日

  • [評者]音好宏(上智大教授)

■いかに秩序維持に機能してきたか

  米国の著名な言語学者であり、ラジカルな体制批判者としても知られるノーム・チョムスキーによるエッセー集である。本書にまとめられている論考は、 「Lies of Our Times(現代の迷信)」誌に1990年から93年に掲載されたもので、連載時に発生していた米国の外交問題と、それを報ず る米国の主流とされるメディアの報道内容について、論評しているのだが、15年以上前のエッセーにもかかわらず、いまだにその輝きを失わず読者を引き込ん でいく。

 それは、著者が新聞紙面の言説を分析することで、米国の主流派メディアが現政権や議会の進める個々の外交事案や政治問題に対し て厳しい批判を展開しようとも、本質的には現体制に抗することなく、いかに既存の秩序の維持装置として機能してきたか、つまり、米国の政治とメディアとの 共犯関係を暴露するからに他ならない。

 例えば、湾岸戦争時、米国の主流派メディアの多くが、トルコ政府のクルド人虐殺にほとんど言及しなかったことは、米国政府と同 様にトルコ政府の行為を支持したことと変わらないのだと論ずる。個々の報道の検証過程で示す、論理展開の斬(き)れのよさに、チョムスキーの真骨頂があ る。著者の米国メディアに対する手厳しい指摘は、もちろん対岸の火事ではない。

   ◇

 本橋哲也訳

表紙画像

メディアとプロパガンダ

著者:ノーム・チョムスキー

出版社:青土社   価格:¥ 2,310

0 件のコメント: