2008年6月10日火曜日

asahi shohyo 書評

舞台を観る眼 [著]渡辺保

[掲載]2008年6月1日

  • [評者]常田景子(翻訳家)

■明確な視点が伝わる舞台の風景

  日本を代表する演劇評論家の一人である著者のエッセー集である。白洲正子、三島由紀夫、折口信夫についての章を柱とし、その間に、歌舞伎、新劇、ミュージ カル、ダンスなどの舞台についてのエッセーが並ぶ。タイトルのとおり、著者の「舞台を観(み)る眼(め)」、芸術を観る眼、人間を見る眼、その視座が見え てくる。

 劇評やエッセーは、90年代前半のものが多いようだが、演劇界が意外に変わっていないことに驚く。私は、この著者とは舞台に求めるものが違うようで、異なる印象を記憶している公演もあるが、著者の視点は明確に伝わってきた。

 白洲正子については、親しく接して知った人柄と業績を、三島由紀夫に関しては、戯曲の言葉の特異性とそれを舞台化するための方法論、折口信夫については、歌舞伎の劇評を軸に、彼が目指し、果たせなかったことを論じている。

 ミュージカルの現代における意義、前衛が古典になる瞬間に生じる問題、様々なジャンルのダンサーが共通して持つべき資質、久保田万太郎の芝居が今日なぜ面白く上演できないのかなど、演劇好きにとって面白い話題が多い。

 歌舞伎役者の芸談の中で、結局その人の生き方が舞台に出るということが語られているが、文章にもその人の生き方が表れるのだろうと感じさせる本だ。

表紙画像

舞台を観る眼

著者:渡辺 保

出版社:角川学芸出版   価格:¥ 1,995

0 件のコメント: