2008年6月10日火曜日

asahi shohyo 書評

現代イスラーム思想の源流 [著]飯塚正人

[掲載]2008年6月8日

  • [評者]小杉泰(京都大学教授・現代イスラーム世界論)

■多様で複雑な流れを明快に概観

 現代の国際社会を理解するには、欧米やアジアだけでなく、イスラームに関する知識も必須である。とはいえ、歴史上のイスラームと現代イスラームは同じではない。現代を理解するためには、現代特有の問題を知る必要がある。

 それに応えてくれる本書は、世界史リブレット・シリーズの一冊としてごく手軽に読める半面、情報量は非常に充実している。概観をつかむには、好適の一冊である。

 題名は「現代」となっているが、内容はイスラーム全体の流れも踏まえていて、前近代についての知識なしにすっと読める。19世 紀から現代に至る多様で複雑な動きを明快に切り分ける手際は巧みである。最近、マスメディアでもしばしば話題となるスンニ派とシーア派についても、現代的 に説明されている。

 白眉(はくび)は、イスラーム思想が西洋の近代文明から受けた衝撃と近代化の課題にどう応えようとしたか、その苦衷と思想的な 革新を描いたところであろう。大きく分ければ、イスラーム理念によって世直しをするのか、現実に適応するよう理念を見直すのか、今日に至るまでせめぎあい は続いている。

 近現代のイスラームに精通した研究者としてよく知られ、国内外の専門家と広範なネットワークを持つ著者の知見が的確に披露されている。

表紙画像

現代イスラーム思想の源流

著者:飯塚 正人

出版社:山川出版社   価格:¥ 765

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