対称性 [著]レオン・レーダーマン、クリストファー・ヒル
[掲載]2008年06月01日
[評者]尾関章(本社論説委員)
■物理学者を裏切らない「対称」の魔力
ファッションにワンショルダーという言葉がある。でも両肩を意味するボースショルダーズは、あまり聞かない。片方だから特別なのだ。
人はみな、対称になじんでいる。だが、「なじむ」の域を超えて魅せられた人々もいる。物理学者である。この本は、その魔力を見せつける。
鏡に映しても同じ、という左右対称だけを思い描いてはいけない。ずらすなり回すなり、なにか操作をしても元通りなら対称だ。物理学では、時や所などを変えても同じ法則が成り立つことをいう。
著者が敬意を払うのは、ドイツの数学者エミー・ネーターの仕事である。彼女が1910年代に証明した定理は、対称性が自然界の「保存則」に直結していることを示した。これを「現代物理学の発展を導く上で、これまでに証明された最も重要な数学の定理の一つ」と位置づける。
たとえば、エネルギーの保存則。なにごともゼロサム、というおきてだ。これは、時が移っても法則は不変、という対称性の帰結にほかならない。そうか、対称の魔力の源はこれだったのか。
最強の対称性は、20世紀に量子力学によって花開いた。
「ゲージ対称性」である。量子力学の数式には、じかに観測できない陰の部分があり、その物差しを変えてもよいと考える。このための帳尻合わせとして表出したものが物理世界の力らしい。「今ではすべての力がゲージ対称性によって支配されていることがわかっている」という。
まず、対称ありき。素粒子の顔ぶれも対称性ドラマの配役にすぎない。このドラマに欠かせない役柄の粒子を理論物理学者が予言し、それを実験物理学者が探す。そして実際に見つけてきた。
巨費をかけて造る加速器も対称のための粒子発見をめざす。対称性は、納税者にも無縁ではないのである。
宇宙はもともと対称との見立ては、今のところ物理学者を大筋では裏切っていない。
だが、土壇場で大きくひっくり返りはしないか。もしかして、宇宙はワンショルダーが好きかもしれない。そんな皮肉も言ってみたくなる。
◇
小林茂樹訳/Leon M.Lederman 実験物理学者、Christopher T.Hill 理論物理学者。
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