2009年2月3日火曜日

asahi shohyo 書評

男色(なんしょく)の景色 —いはねばこそあれ— [著]丹尾安典

[掲載]2009年2月1日

  • [評者]唐沢俊一(作家)

■隠されてきた日本文化の美意識

  堺市の図書館にBL(ボーイズラブ)と呼ばれる少年愛小説が多数収められていることが、つい最近、問題になった。図書館にこのような書籍を置くことには賛 否両論あるだろうが、たとえ否定的な意見の持ち主でも「川端康成の『伊豆の踊子』も廃棄せよ」とは、まさか言い出すまい。

 しかし、本書によればこの作品の原型は川端が大正11年に執筆した『湯ケ島での思ひ出』という作品の前半部分であり、後半には川端が中学校のときに初恋におちた、清野という少年のことが描かれている(この部分は、後に『少年』という作品になる)。

 そして、純粋な少女への憧憬(しょうけい)を描いた作品としてとらえられがちな『伊豆の踊子』にも、その裏に踊り子の兄の栄吉 と主人公の同性愛的な感情がサブテーマとして描かれているという。今まで思い描いてきた作品のイメージが根底からくつがえされる、という読者も多いだろ う。

 著者の筆は「万葉集」から男性の同性愛誌「薔薇(ばら)族」まで縦横に駆け巡り、日本文化において男色というものがどれだけ大 きなファクターであったかを指摘する。ある部分では、日本文化の通奏低音として隠されてきたこの美意識を思うとき、それがBL小説などにいかに影響を与 え、かつ変容してしまったかも思い合わせられる気がする。

表紙画像

伊豆の踊子 (新潮文庫)

著者:川端 康成

出版社:新潮社   価格:¥ 380

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