2009年2月19日木曜日

asahi shohyo 書評

山本三春『フランス ジュネスの反乱』 雨宮処凛(上)

[掲載]2009年2月15日

■連帯するフランス 日本の冷たさ対照的

 1月末、フランスでは雇用の維持などを求めてゼネストが行われ、200万人規模のデモが街をにぎわした。まるで06年の「CPE」反対運動のような光景が再び現れた。

 『フランス ジュネスの反乱』は、05年にパリ郊外で起きた「暴動」と、翌年に起きた、若者を使い捨てにするような法律「CPE」への反対運動の広がりを感動的に描いている。

 郊外の若者を「社会のクズ」と言い放つサルコジ、「市場競争に勝ち抜けない人間は黙って死になさい」というような労働市場の規制緩和に対して、若者たちは立ち上がり、それを労働組合や教師、父母などの「大人」たちが支援する。

 そこにあるのは、徹底した「権利意識」と「連帯」の心だ。フランスの大人たちは、若者の働く権利が破壊されれば、自分たちの権 利も奪われることを知っている。だからこそ、大規模デモで少々迷惑をかけられようとも怒ったりしない。安易な「若者バッシング」などはなく、若者も大人も 世代間対立という罠(わな)にもひっかからない。フランスには、「よりよく統治するためには分断せよ」という誰でも知っている格言があるという。だからこ そ、分断を乗り越えて連帯できる。

 現在、日本では3月末までに40万人が失業すると言われている。しかし、この国ではゼネストや数百万人のデモは起こっていな い。それは私たちが権利意識を育む以前に、徹底して「管理」され、「分断」されてきたからではないだろうか。誰かが声を上げれば「KY」となじられ、行動 を起こせば「迷惑」と眉をひそめられ、冷笑される。しかし、フランスの若者たちは主張し、行動し、現実に「CPE」を撤回させた。そしてフランスの大人た ちはそれを支えてきた。

 この本を読むと、日本の異常さ、冷たさ、そして自分も含めた大人たちの未熟さが浮かび上がる。私たちはもっと声を上げていいのだ。「未来をよこせ!」と。(作家)

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 やまもと・みはる 59年生まれ。パリ在住のジャーナリスト。

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