2009年2月25日水曜日

asahi shohyo 書評

富の王国 ロスチャイルド [著]池内紀

[掲載]2009年2月22日

  • [評者]奈良岡聰智(京都大学准教授)

■知恵も継承してきた一族の歴史

 経済的格差が大きな問題になっている昨今、富裕層や貧困層に焦点を当てた著作の出版が目立つ。本書は、世界経済に絶大な影響力を及ぼしてきた大富豪・ロスチャイルド家の歴史をつづっている。

 ロスチャイルドと言えば、「世界金融の支配者」といったおどろおどろしい見方をされることも多い。著者はそのような皮相な陰謀論的解釈を退け、豊富なエピソードを基に、この一族の人間的な魅力を生き生きと描いている。

 元々一介の金融業者だった同家は、同族の結束、徹底した教育、迅速な情報収集によって、やがて巨万の富を蓄積する。彼らが「成り金」に終わらなかったのは、大胆にして細心、巧みで果敢な経営戦略のたまものであった。

 他方で筆者は、彼らがむしろ富の使い方をよく知っていたと強調する。慈善事業への多額の寄付、貴重な美術品の寄贈……これらは 単なるイメージ戦略ではなく、慈善や芸術の意義を真に理解し、「富める者」の義務を強く意識した行為なのだという。学者や芸術家も多数輩出し、蚤(のみ) 博士までいる(!)という知的でリベラルな家風を見れば、さもありなんと納得する。

 富の蓄積は難しいが、知恵の蓄積はそれ以上に難しい。見事に知恵を継承してきた一族の歴史から、富者かくあるべしと教えられる。

表紙画像

富の王国 ロスチャイルド

著者:池内 紀

出版社:東洋経済新報社   価格:¥ 1,890

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