2009年2月25日水曜日

asahi shohyo 書評

現代のイスラム金融 [著]北村歳治、吉田悦章

[掲載]2009年2月22日

  • [評者]小杉泰(京都大学教授・現代イスラーム世界論)

■「社会的責任投資」と倫理性を強調

  イスラム銀行の誕生期は30年ほど前であるが、当時は「無利子」を標榜(ひょうぼう)する銀行に対して、利子を取らない金融はありえない、と懐疑的な見解 が目立った。ところが、イスラム回帰を強める預金者や企業家、産油国の資金力などに助けられてイスラム金融は予期せぬ成長を遂げてきた。

 本書はその成長の歴史を踏まえながら、今日のイスラム金融の全体像を描き出している。昨今は、日本でも入門書などが増えているが、本書は非常に良質の概説書としてお薦めできる。

 イスラムの教義において否定されているのは不労所得や賭博性であり、そこから利子、不確実性、投機性などが禁じられている。その原則を守りながら、現代的な金融に対応するために、さまざまな取引方式が生まれた。その多様な方式が丁寧に、具体例とともに説明されている。

 「ムダラバ」などとカタカナで書かれると難解な金融取引も、日本での例になぞらえて、投資ファンド、投資信託、共同出資、リースに相当と説明されると、わかりやすい。実際の金融商品がどのような契約を使っているかの対照表も有用であろう。

 経済活動の倫理的な面を強調する点からは、「社会的責任投資」の一種と言えるという指摘は、納得できる。倫理性を強調すれば、経済的な効率性が損なわれる可能性があるが、倫理の欠如が生んだ現在の世界金融危機を思えば、むしろ倫理性の主張が関心をひく。

 今後のイスラム金融の発展の可能性については、革新的な役割を期待する見方と、現状の問題点への辛口の論評が述べられ、どちらも面白い。国際金融の実態をよく知る2人の著者は、通常の金融とイスラム金融が今後も共存する点で見解が一致している。

 日本にとっての展望も述べられている。イスラムの金融資本市場において先行する英国やマレーシアに伍(ご)するのは容易ではな い。しかし、これからの時代に真に国際的であろうとすれば、イスラム金融も扱えなければならないという。その方法も、本書では具体的に検討されている。

    ◇

 きたむら・としはる 早大大学院教授。よしだ・えつあき 国際協力銀行勤務。

表紙画像

現代のイスラム金融

著者:北村 歳治・吉田 悦章

出版社:日経BP社   価格:¥ 2,520

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