2009年2月26日木曜日

asahi shohyo 書評

人間の覚悟 [著]五木寛之

[掲載]2009年2月22日

  • [評者]小柳学(編集者)

  「地獄は一定(いちじょう)すみかぞかし」。800年前に生きた親鸞のことばを引いて、われわれも覚悟を決めるべきだという。国も銀行も頼りにできない。 祖父が孫を殺し、息子が父親を殺すといったニュースが毎日のように流れ、今日もどこかで100人近くの人が自殺している。「地獄の入り口の門が、ギギギ、 と音を立てて開き始めているような気配がある」と著者はいう。

 覚悟とは「明らかに究める」、つまり「あきらめる」こと、という。自らの鬱(うつ)体験を語り、登山ではなく下山の哲学を説 く。ボランティアなら「感謝のことば」をもらえなくても、ありがとう、と心の中でつぶやく。いや、「石もて追われる」覚悟ですべきだと。いま必要なのは、 いかに生きるかを問うことではなく、これまでの自分をいったん捨て去ってでも生き続けること、その「覚悟」であると。

 去年の夏に企画し、11月に刊行した。「その間に、秋葉原の事件があり、金融危機が起き、首相が政権をほうり投げた。本のタイトルが必要な世の中になってきました」と担当編集の阿部正孝さん。

 出せばベストセラーの感ありの"五木本"。もともと多くの固定ファンがいるが、今回の読者層は、これまでとやや様相がことなる。従来、女性が6割だったが、今回はその比率が逆転、男性が6割を占める。

 世代もことなる。これまでの"五木本"の活字がたいてい大きいのは、固定ファンの多い高齢の読者層への配慮とも思われるが、この本は、30〜40代の「現役世代が中心」と営業部の寮勇治さんは語る。

 地獄のはじまり、破綻(はたん)の予感を強く感じているのは、いま働いている人たちということか。

    ◇

 7刷28万部

表紙画像

人間の覚悟 (新潮新書)

著者:五木 寛之

出版社:新潮社   価格:¥ 714

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