2009年2月19日木曜日

asahi shohyo 書評

歌人・伊藤一彦さん 「今なぜ『牧水』か」と題して講演

2009年2月19日

写真歌人の伊藤一彦さん

  東京・駒場の日本近代文学館で14日まで開かれた「若山牧水東京展」で「今なぜ『牧水』か」と題して講演した。牧水の故郷・宮崎県日向市の若山牧水記念文 学館館長。牧水の本質は「けふもまたこころの鉦(かね)をうち鳴(なら)しうち鳴しつつあくがれて行く」という歌の「あくがれ」だという。

 「『濡(ぬれ)草鞋(わらじ)を脱ぐ』という言葉が日向にある。よそ者が村にやって来て、ある家を頼ることを指す。牧水の家は 濡草鞋を脱ぐ人が多かった。多くは山師のような敗残者だが、牧水は温かく迎えて村の外の世界にあくがれた。故郷を愛しながら同時に異郷にあくがれるような 心を併せ持つ点に、牧水のおかしみがある」

 旅と家庭、人妻と愛妻、北国と南国のように相反するものに引かれるアンビバレントな感情を、牧水は素直に歌にした。「西洋が人 間と自然、我と他者を区別する『分ける思想』ならば、牧水の歌は日本古来の『分けない思想』に根ざしている。あくがれのままに生き抜いたその人生は、現代 人に元気を与えてくれる」(編集委員・白石明彦)



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