パレスチナとは何か [著]エドワード・W・サイード
[掲載]週刊朝日2009年2月6日号
- [評者]永江朗
■ユダヤ系知識人が広める"パレスチナ人=テロリスト"
イスラエルは一方的な停戦を宣言した。ハマスも一方的に停戦するという。ようやくこれで年末から続いたガザに対するイスラエルの攻撃も終わりそうだ。千人 以上が殺された。その中には子どもたちをはじめ多数の民間人が含まれる。しかし、パレスチナの平和は遠い。そもそも今回の停戦は「一方的」なものでしかな い。イスラエルとパレスチナが交渉し、合意したわけではない。いつでも攻撃を再開できるのだ。
エドワード・W・サイードの『パレスチナとは何か』(島弘之訳)を読みながら考えた。サイードはエルサレム生まれのパレスチナ 人で、アメリカの比較文学者、批評家。1935年に生まれ、2003年に亡くなった。この本では、サイード自身や両親や伯母の思い出を語りつつ、パレスチ ナとは何なのか、パレスチナ人とは誰なのかを考察していく。
1948年、イスラエル建国。これによってパレスチナの人びとは土地を奪われ、追い払われてしまう。抵抗するものには「テロリ スト」の烙印が押される。イスラエルの強力な後ろ盾となってきたのがアメリカだ。アメリカではユダヤ系の知識人、文化人が、パレスチナ人=テロリストとい うイメージを広めるのに一役買う。パレスチナ人が自前の国家を持つことに、イスラエルはもちろん、アメリカとそのお仲間の国々は反対し続ける。パレスチナ 問題とは、たんにイスラエルとパレスチナの紛争ではない。
今回のガザ攻撃も、ロケット弾を撃つハマスが悪いとイスラエルは主張する。確かにミクロ的にはそう見えるかもしれない。しか し、元はといえば不当な占領を続けるイスラエルがいけない。うがった見かたをすると、ハマスを挑発し、わざとロケット弾を撃たせ、それを口実にパレスチナ 人を地上から消滅させようとしているかのようだ。
この本の原著がアメリカとイギリスで刊行されたのは1986年。20年以上たつのに、事態は一向によくならない。
- パレスチナとは何か
著者:エドワード・W.サイード・島 弘之
出版社:岩波書店 価格:¥ 1,260
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