〈アカデミー賞特集〉「クラス」
「クラス」(C)Entre les Murs by Laurent Cantet. 2008. Production Haut et Court-France 2 Cinema
「クラス」は、パリの中学校を舞台に、ある学級の模様をドキュメンタリータッチで映した。
人種の違う生徒たちの摩擦、教師の心ない言葉に傷つく女子の繊細な心、暴行をふるって転校させられる男子の憤りとあきらめ……。崩壊寸前の学級に見える。教師は懸命に束ねようようとする。
だが、それは教師フランソワを通したローラン・カンテ監督の仕掛けでもあるようだ。大人を相手にするように、生徒たちに問題を提起し、語りかけ、議論を あおる。教師や級友の威圧にけおされず、生徒たちは次々、異論、反論を述べる。節目節目で監督の演出が加わっているが、あとは生徒たちのアドリブで、それ ぞれの発言、エピソードは脈絡に欠け、物語として焦点を結ばず、散漫でもある。だが、その「リアル」な光景こそに、社会の小宇宙としての学校を撮るという 意図が映し出されていた。最高賞パルムドールを受賞した昨年のカンヌ映画祭で、審査員を務めた仏の俳優ジャンヌ・バリバールは、生徒たちの牙をむくような 言葉の数々に「最も残酷な映画だった」と評したほどだ。
映画に登場する子どもたちは全員、パリ20区にある中学校の生徒。1年かけて、即興劇のワークショップを開き、クラスを形成した。台本はない。話 が逸脱し、言いたいことがあるのに、言葉が出ないという間合い、話し合っても誤解が解けないこともあったという。だが、意外性や、生徒それぞれの「本当の 考え」がいかにして生まれるかが、最も面白い瞬間だと監督はとらえた。たとえば、中国系の男子が未熟なフランス語への劣等感と、親が国外退去させられる心 配を語る場面の演技を少年に任せたが、その少年は自らに引きつけるように語った。
監督は作品に寄せて、「中学生に中学生を、先生に先生を演じることを頼んでも、それぞれ自分自身を表現することは期待しない。『演技』することによって、自分を再生するのだ」。
終盤、暴力をふるったとされる生徒に対する懲罰委員会が開かれることになり、生徒と教師でかわされた平等の約束に亀裂が入る。が、混沌はそのま ま、予定調和のような結末にはならない。その演出意図について、監督は「学校がこうあるべきだという主張や論理ではなく、学校の外で起きていることと同じ ように、ときにはこういう状態にある、ということを描いた」と語っている。(アサヒ・コム編集部)
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