〈アカデミー賞特集〉ガス・バン・サント監督
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被写体を冷たく突き放し、過剰な感情表現をいっさい排したような硬質なカットの連続。ガス・バン・サント監督の先鋭的な感性は、特異な位置にある。
その監督が、ゲイとして公職についたハーヴェイ・ミルクをとりあげたのは驚きだ。70年代のアイコンの一人であり、聖と俗を兼ね備えた人間味あふれるミ ルクを、どう鋭く切り取るのか。かつての出世作「グッド・ウィル・ハンティング」は、まるで心を持たない数学の天才青年が主人公だったし、ロックバンド 「ニルバーナ」のカート・コバーンを映した「ラストデイズ」では、ほとんど言葉を発しないまま自殺にいたる数日間の奇矯ぶりを映した。そうした「低体温」 の人間から一転、熱いミルクに向き合った。世界に恐怖を与え、彼の代表作となった「エレファント」は、コロンバインの銃乱射事件という冷酷な事実を、多数 の被害者それぞれの視点から撮影し、カットバックを多用して交錯させながら生身の人間を浮き彫りにした。一人ひとりの感情が、他者にぶつかって乱反射する 様子を斬新なタッチで描く手法は、後進の若手に影響を与えた。
「エレファント」「ラストデイズ」と共に「ミルク」の制作でも、フレデリック・ワイズマン監督の影響を受けたという。荒々しく緊迫した中にも、リ ラックスしている空気。たしかに、ヒッピームーブメント、ゲイフリーダム・パレードなど、70年代の荒々しさを映しつつ、ミルクのナイーブな感性の輪郭を くっきりと映している。(アサヒ・コム編集部)
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