2009年2月16日月曜日

asahi art critic film Academy Award special

〈アカデミー賞特集〉スティーブン・ダルドリー監督

2009年2月16日

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写真スティーブン・ダルドリー監督(C)Melinda Sue Gordon/TWC 2008

 「愛を読むひと」は、監督にとって3作目で、いずれも、アカデミー賞監督賞候補になった実力派だ。

 保守的な英国の田舎町で、労働組合運動に熱をあげる父と兄をよそに、バレエダンサーを夢見る少年をみずみずしく映したデビュー作「リトル・ダンサー」 は、世界の映画祭で40もの賞を取った。バージニア・ウルフの奇矯な姿をニコール・キッドマンが演じた「めぐりあう時間たち」は、彼女にアカデミー賞主演 女優賞をもたらした。メリル・ストリープ、ジュリアン・ムーアの共演陣も華麗だった。いずれも叙情的で、文学性と物語性の豊かな作品。「愛を読むひと」 も、そうした監督ならでは質感に仕上がった作品だ。

 61年、英国生まれ。大学卒業後、舞台演出家になる。メトロ・シアター・カンパニーなどの芸術監督を歴任。ロイヤル・ナショナル・シアターでの 「夜の訪問者」「Machinal」の演出で、2年連続ローレンス・オリヴィエ賞。「夜の訪問者」はブロードウェー公演でトニー賞も受賞した。

 ハリウッドが映画化権を得た約10年前、アンソニー・ミンゲラとシドニー・ポラックが製作し、ミンゲラが監督する方針だった。が、ダルドリーがミンゲラに、監督したい意思を伝え、ポラックが製作者になることを条件に、希望がかなった。

 映画は、主人公のマイケルと21歳年長のハンナの恋が主調をなす。が、ハンナがナチス親衛隊(SS)に加担した過去が暴かれるなど、クライマック スは暗く、重い。監督は、「歴史」を引き継ぐための、マイケルと娘の心の交流を描き出すなど、原作にない逸話を加えて未来への希望を託した。

 07年のアカデミー外国語映画賞では、旧東ドイツの秘密警察の陰湿な諜報活動を映した「善き人のためのソナタ」が受賞した。政治の影を引きずりな がら、「愛を読むひと」に、かすかな明るさがあるのは、そうした脚色の成果だろう。30〜60代までを好演したケイト・ウィンスレット、抑制の利いた演技 が光るレイフ・ファインズ、そして、映画3本目という新進デヴィッド・クロスの起用の成功も光る。原作者ベルンハルト・シュリンクに、エキストラ出演させ たユーモアのセンスもいい。(アサヒ・コム編集部)

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