2009年2月16日月曜日

asahi art critic film Academy Award special

〈アカデミー賞特集〉「愛を読むひと」

2009年2月16日

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写真写真写真「愛を読むひと」(C)Melinda Sue GordonTWC 2008

 戦犯容疑を引き受け、愛を捨ててまで「小さな秘密」を守り通した女性の痛みとはじらい、声なき叫びに世界が涙した小説「朗読者」の映画化だ。

 1958年のドイツ。15歳のマイケルは、雨に打たれて熱を出し、街角で倒れているところをハンナ(ケイト・ウィンスレット)に介抱される。快復の礼に ハンナを訪ね、恋に落ちる。家族と友情をなげうち、日々、21歳年上のハンナのもとに走る。体を重ねる前に本を読んでほしいと求めるハンナに、マイケルは 名作の数々を読み聞かせる。なぜ? マイケルは気づかない。ある日、ハンナは姿を消す。2人の再会は8年後。ナチス親衛隊(SS)を裁く法廷の被告人席に いたハンナを、法学専攻の大学生として傍聴していたマイケルは見つける。

 みずみずしくも激しい青年の思いと、それをためらいがちに受けとめつつ燃え上がる36歳ハンナの恋は切ない。8年の音信不通を経て法廷でハンナに 「再会」し、獄中の彼女に朗読テープを延々と送り続けるマイケル。ついにハンナは、ある秘密のトラウマを打ち破るために行動を起こす……。

 戦争の傷跡がなお、人生を翻弄し続ける悲恋の物語だが、原作ともども、人間や時代の「汚点」に、改めて正面から向きあった。ハンナはアウシュビッ ツやクラクフでSSの看守を一時的に務め、ユダヤ人を生きる者と死ぬ者に「選別」していた。裁判では、他の女性看守たちの醜い言い逃れやウソが飛び交い、 今度こそ正義を体現すべきドイツ人裁判官が事実誤認するさまを映し出す。そして、生き延びたユダヤ人の憤りにも、クライマックスで向きあう。映画は、悲恋 とホロコーストに対する懺悔が併走する。

 ケイト・ウィンスレットの熱演が光る。序盤、マイケルの朗読に「わいせつだ」と非難する「チャタレー夫人の恋人」さながら、濃厚なセックスシーン が度々ある。が、収監されて以降のやつれたハンナを演じる姿には、新しいウィンスレットが見られた。今回のアカデミー賞他部門で候補にあがり、夫のサム・ メンデスが監督した主演作「レボリューショナリー・ロード」でも、「愛を読むひと」に劣らぬ迫真の演技を見せる。こちらは、変哲ない日常を生きる主婦の心 が、おりのようにたまったストレスによって破壊される悲劇的な姿を演じた。レオナルド・ディカプリオという「タイタニック」のビッグカップルの共演だけで なく、海外のゴシップ紙では2人の「恋」がささやかれ、話題に。この映画、すれ違いが高じて、夫婦2人ともに不倫に走る設定だが…。

 成人したマイケルを演じたレイフ・ファインズは、「嵐が丘」でのヒースクリフ役でデビュー。「シンドラーのリスト」「イングリッシュ・ペイシェン ト」に出演した。46歳の若さながら、寡黙で苦みのある演技は、作品に余韻を与える。青少年期を演じたデビッド・クロスは18歳の新進だが、青臭いマイケ ルを好演。思わぬ収穫だった。ほかに、ブルーノ・ガンツ、アレクサンドラ・マリア・ララなど、脇役も堅い。(アサヒ・コム編集部)

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