「死に対する畏敬」米でも評価 「おくりびと」栄冠
受賞の瞬間、滝田洋二郎監督は足早に壇上に上がり、「サンキュー、オール・アカデミー」と英語であいさつした——。第81回アカデミー賞で「おくりび と」が外国語映画賞を受賞した。英語題は「旅立ち」を意味する「ディパーチャーズ」。海外36カ国・地域で公開が決まっている。滝田監督はスピーチを「ア イル・ビー・バック」と締めくくった。
主人公を演じた本木雅弘さんが、旅先で葬儀の光景をヒントに十数年前から温めてきた企画。07年に山形県庄内地方などで撮影し、本木さんの上司を山崎努さん、妻を広末涼子さんが演じた。
本木さんは、納棺師の青木新門氏の著書「納棺夫日記」を読み込み、現役納棺師の特訓を受けた。「ご遺体」を丁寧に清める湯灌(ゆかん)の儀。旅立 ちの衣装への着替えでは、故人の肌が見えぬよう細心の注意を払い、化粧を施して生前の面ざしをよみがえらせる。流れるような所作の美しさ。ひつぎに納める までの動きの隅々に、命に対する厳粛な思いがにじむ。
「死は誰にでも平等に訪れる。普遍的なテーマに共感してもらえたのではないか」と本木さん。米の映画業界紙ハリウッド・リポーターは「死に対する畏敬(いけい)の念を通して生をたたえる感動作」と評した。
メガホンをとった滝田監督は81年にピンク映画で監督デビューし、85年の「コミック雑誌なんかいらない!」で一般映画に進出した。幅広いジャン ルで上質の娯楽映画を手がけてきた。日本映画界を支えるヒットメーカーでありながら、国際映画祭とは縁が薄かったが、今回の受賞で国際舞台に大きく羽ばた いた。
本木さんの企画実現を支えた所属事務所社長が一昨年11月に死去。滝田監督は完成直後の昨年6月に師匠だった向井寛監督を亡くした。映画で本木さ んの父親を演じた峰岸徹さんも昨年10月に病死した。スクリーンの外で様々な「旅立ち」を見送りながらつかんだオスカー像だった。
日本では昨年9月に封切られ、観客数272万人のロングランヒットを記録。キネマ旬報ベスト10で日本映画の第1位に選ばれ、日本アカデミー賞で 最優秀作品賞を含む10冠を獲得するなど、国内の主要映画賞を独占していた。海外でもカナダ・モントリオール世界映画祭でグランプリを受賞。
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