〈アカデミー賞特集〉「バーダー・マインホフ・コンプレックス」
「バーダー・マインホフ・コンプレックス」(C) 2008 CONSTANTIN FILM PRODUKTION GMBH NOUVELLES EDITIONS DE FILMS S.A. G.T. FILM PRODUCTION S.R.O
ナチス時代の子ども世代の若者が、資本主義を新たなファシズムと見なし、テロの刃を向ける姿を生々しく描く。
物語は67年から始まる。左翼ジャーナリストのマインホフは2人の子を連れてベルリンに移り、反権力・反資本主義の学生闘争に参加。エンスリンはボーイ フレンドのバーダーと共にデパートを放火する。3人はドイツ赤軍(RAF)を立ち上げる。ヨルダンのファタハと戦闘訓練を積み、銀行強盗などの破壊活動を 激化。70年代、3人はドイツ連邦警察に逮捕されるが、それによって彼らの大義が政治力を持ち始め、RAFはハンガーストライキやさらなる攻撃で、ドイツ 社会、民主主義の根幹を揺さぶり、誘拐やハイジャック闘争にまでエスカレートしていく…。警察の指揮をとる役に名優ブルーノ・ガンツ、RAFの一員にアレ クサンドラ・マリア・ララが出演。くしくも、この2人は、作品賞、主演女優賞候補作「愛を読むひと」でも共演している。原作は、85年に出版されたシュテ ファン・アウストの同名著書。
監督は61歳のウリ・エデル。今作や「薔薇の名前」「ヒトラー 最期の12日間」「素粒子」の製作を手がけたベルント・アイヒンガーと組んだ「クリスチーネ・F」で成功し、その後、「ブルックリン最終出口」などを撮った。テレビでは"怪僧"ラスプーチンを描いている。
最近、世界で70年代を再考する映画が、盛んに作られている。いずれも、今回の作品賞候補で、ゲイの政治家を通してマイノリティーの権利解放を映 した「ミルク」、ずばり「フロスト×ニクソン」、ナチスの傷を背負った女性を描いた「愛を読むひと」のクライマックスも70年代だった。日本では若松孝二 監督「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」が記憶に新しい。
また、07年の山形国際ドキュメンタリー映画祭は、ドイツの次世代の気鋭による再総括を映した作品が特集された。ドイツ赤軍メンバーによる銀行家 暗殺事件や、75年のウィーンの石油輸出国機構(OPEC)本部襲撃に参加したテロリストを描いたもの、ネオナチの大物オット・フリート・ヘップと旧東ド イツ秘密警察とのつながりを暴くものなど、30〜40代の気鋭によるさまざまな作品の誕生を見せつけた。
監督にとって、同世代の物語だ。「私はミュンヘン大学にいた68〜69年、1日おきに政治集会や抗議デモに参加した。どうしようもなく、革命にロマンを感じていたが、72年に最初の爆弾が炸裂し、幻滅した」と、作品に寄せたメッセージの中で振り返る。
こうも、記している。
「元テロリストに話を聞く際、自分の関与や犯した過ちを錯覚して矮小化する人がいる。私の親の世代も、第2次大戦からわずか15年後、第三帝国と のかかわりを忘れてしまっていた。記憶を抑制することで、過去(と折り合いをつけて、今)を生きられる」。記憶の風化の危うさを憂える空気が、こうした歴 史を再考する作品を生み出しているようだ。(アサヒ・コム編集部)
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