2009年2月19日木曜日

asahi shohyo 書評

ゲバラ最期の時 戸井十月さん

[掲載]2009年2月15日

  • [文・写真]依田彰

写真戸井十月さん(60)

■生きてるって実感したい

 「ゲバラが最期に見た風景を見たかった。彼が39年間の人生をどう思ったか、確かめたくてね」。作家の戸井十月(とい・じゅうがつ)さんが、伝説の革命家の姿をリアルによみがえらせた。

 ゲバラはカストロとともにキューバ革命を推進した後、その地を去って独裁と貧困に苦しむラテンアメリカ諸国の解放を目指すゲリラ戦に転戦。67年に拠点としたボリビアの山中で国軍兵士に謀殺され、埋葬先も97年の発掘まで謎だった。

 そんな「歴史上のスター」を知ったのはベトナム戦争や学生運動で揺れる60年代。「人間愛と正義感。理想主義者で詩を愛する表 現者。強靭(きょうじん)な意志。まず単純にカッコイイんだよね」。以来その生き方に共鳴し、ゲバラ関連の著書も出したが、資料と想像力で書いただけでは どこか納得できなかったと振り返る。

 バイクによる冒険旅行家としても知られる戸井さんは05年、「最も肌があう好きな旅先」という南米大陸を改めて走り、途上ゲバラゆかりの地を訪問。生前最後の目撃者や遺体に触れた医者兼記者、戦友や同僚らの貴重な証言を得る。それが「オレのゲバラ像」に結実した。

 旅はアルゼンチン人医学生だった若き日のゲバラがバイクで南米大陸を北上した姿にも重なる。だが念願のゲバラ最期の地に立ってもなお、「愛する家族、厚い友情や高い地位を捨ててまで革命に身を投じた真の理由はわからない」と明かす。

 今後は、「五大陸走破行」計画の最後、ポルトガルから東京をめざすユーラシア大陸走破への準備を始める。「毎回、生身の実力が試される危険な旅なのに、なぜかまた行きたくなる。オレはまだやれる、生きてるって実感できるからね」

 それもゲバラの呪縛か。花の団塊世代。どこまでも「熱き男」を貫くつもりだ。

表紙画像

ゲバラ最期の時

著者:戸井十月

出版社:集英社   価格:¥ 1,575

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