2009年2月16日月曜日

asahi art critic film Academy Award special

〈アカデミー賞特集〉デビッド・フィンチャー監督

2009年2月16日

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写真デビッド・フィンチャー監督(左)

 キリスト教の「七つの大罪」から着想した猟奇殺人犯を追う「セブン」(95年)、ナイーブな男が、決闘に明け暮れる荒くれどものリーダーと二重人格にな る「ファイト・クラブ」(99年)など、劇的な虚構と巧みなプロットの妙が光る。「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」は、その真骨頂といえる奇想の物語 だ。

 01〜02年ごろから企画を温めていたという。80歳で生まれ、年を追うごとに若返る主人公ベンジャミン。「内面と外面が全く違うベンジャミンの 呪われた運命が決定的瞬間を迎えるところが、観客の共感を得られるのではないか」と、来日時の会見で話した。若返り続けるという、誰もがうらやむ幸福が悲 劇に変わる瞬間。つまり、ベンジャミンと恋人デイジーの愛が発火した瞬間、列車がすれ違うようにまたたく間に年齢が過ぎ去る悲しみを指す。やはり、この監 督らしい「反転」が、映画の最大の見せどころだ。

 監督は、先の2作品で主演のブラッド・ピットと組んだ。その彼への信頼は厚い。この怪奇譚が滑稽なおとぎ話に陥らなかったのは、ひとえにベンジャ ミン役のピットの演技によったはずだ。監督は、「当初、台本のイメージがわかなかった」というピットと「(演出を)決めつけず、何時間も話し合った」。

 主演2人は「バベル」で共演したが、実は同作以前の01〜02年にケイト・ブランシェットの配役を構想していた。よく知る3人が組んだからこそ、奇抜なSF物語の中に、人生の哀歓を描くことができた。

 満ち足りた生活を送るエグゼクティブが、相次ぐ悲劇に巻き込まれるが、実は人生に波風を起こすために弟が仕組んだ精巧なトリックだったという 「ゲーム」(97年)を撮った。監督は、虚構に満ちた物語の中に、生々しい生を逆照射する。それは、ローリング・ストーンズやマドンナ、マイケル・ジャク ソンなど、そうそうたる時代のアイコンのプロモーション・ビデオを手がけてきた監督にとって、人間の虚実を凝視したいという欲求の現れなのだろうか。(ア サヒ・コム編集部)

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