ハチはなぜ大量死したのか [著]ローワン・ジェイコブセン
[掲載]2009年2月22日
- [評者]尾関章(本社論説副主幹)
■集団の知性壊した自然界の「蟹工船」
ブンブン。
我らミツバチが大挙して失跡するという異変が米国などで広がりを見せたのは06年秋ごろからだ。我らの友人である食と環境のライターが、その謎を追った。
ケータイの電波、遺伝子組み換え作物……犯人と疑われるものが浮かんでは消えた。ウイルス関与説も広まるが、それを揺るがす研究結果も出てくる。主犯をずばり言い当てたとは言い難い。
でも、ストレスまみれの我らの日常を暴いてくれたのはうれしい。著者に多謝。
我らの多くは養蜂業者のもとで「トラックに載せられて花粉交配の仕事に駆り出される」。数週間ごとに派遣先が変わり、「ぼろぼろになっている」のだ。この本は、それを多忙なビジネスマンにたとえるが、どちらかといえば蟹(かに)工船ではないか。
我らは連絡をとり合って花に赴き、蜜を蓄える。精緻(せいち)な分業だ。著者は「『高等生物』を恥ずかしくさせるほど高度で複 雑な仕事」とほめる一方で「知性のほとんどは、個々の蜂にではなくコロニーに宿る」と痛いところをつく。だから、拙稿の一人称も私や僕でなく我らなのだ。
その、巣ごとの知性がいま脅かされている。
消えた仲間は「巣に戻る方向がわからなくなって外で客死した」のかもしれない。農薬には我らの方向感覚を狂わすものがある。そ れが「巣の知恵を損なって」いないかと著者は問う。これには支持不支持両方のデータがあるようで断定は禁物だが、ヒトビトが人知とは異なる知性を壊してい るのだとしたら怖い。
我らが酷使されるのは「農業がミツバチに頼っている」からだ。この本は、中国での人海戦術による果樹の授粉などに触れて、野生の花粉媒介役が失われつつある生態系のほころびを指摘する。
美しい花は、動植物を助け合わせるという自然界の知恵のたまものだが「色鮮やかな被子植物の爆発的な分化はついに失速しかけているのかもしれない」。
我らの受難は地球の病を映しだす。けさのハニーはちょっぴり苦い? ブンブン。
◇
FRUITLESS FALL
中里京子訳/Rowan Jacobsen 米国の雑誌や新聞に環境や食物の問題を執筆。
- ハチはなぜ大量死したのか
著者:ローワン・ジェイコブセン
出版社:文藝春秋 価格:¥ 2,000
0 件のコメント:
コメントを投稿