2009年2月16日月曜日

asahi art critic film Academy Award special

〈アカデミー賞特集〉「おくりびと」

2009年2月16日

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写真「おくりびと」(C)2008 映画「おくりびと」製作委員会

 そのものズバリの「お葬式」(伊丹十三監督)、精進落としの一夜を描いた「寝ずの番」(マキノ雅彦監督)は、いずれも喜劇タッチだった。が、この「おくりびと」は、静かで風雅なたたずまいがある。それが、多数の中高年を劇場に呼び寄せた理由なのか。

 本木雅弘演じる小林はチェロ奏者だったが、楽団が解散し、故郷の山形に。新たな働き口を探すうち、「旅のお手伝い」の字に目をとめる。旅行会社と思って 訪ねたところ、遺体を棺に納める会社だった。新人として、ニューハーフの青年、ぐれていた女子高生、ルーズソックスにあこがれたおばちゃんなど様々な遺 体、人間模様に接し、仕事に引き込まれてゆく。新妻(広末涼子)は「汚らわしい」と実家に帰り、幼なじみからも避けられる。が、その真剣さに、周囲も彼の 意思を理解し始める…。納棺会社の社長役は、伊丹作品のアイコン山崎努。吉行和子、笹野高史ら芸達者の脇も手堅い。

 劇中、本木も演じている納棺師の仕事は、鼻の穴などに綿を詰め、表情を和らげ、体をきれいにふくという、いわゆる死化粧。死に装束の着付け。口紅や肌の色、髪形を整えるメーク、そして納棺にいたる。

 この映画の発案者は、実は本木自身。十数年前に旅したインドでの記憶や本を通して、納棺の世界を知った。実際の作業も実地に見た。不謹慎ながらと 前置きしたうえで、「洗練された所作が美しく、茶の作法のようであり、パフォーマンス性もある。遺族の心に寄り添いながら、最後の記憶として抑揚もつけ る」。その仕事を、指揮者にもたとえた。自身、実生活で出産に立ち会ったことを引き合いに出し、人が生まれることの喜びと等価の感情を持ったという。(ア サヒ・コム編集部)

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