2009年2月16日月曜日

asahi art critic film Academy Award special

〈アカデミー賞特集〉「スラムドッグ$ミリオネア」

2009年2月16日

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写真写真写真「スラムドッグ$ミリオネア」(C)2008 Celador Films and Channel 4 Television Corporation

 アカデミーの前哨戦、ゴールデングローブ賞をはじめ、世界の映画賞を総なめしている。映画大国インドの商都、旧名ボンベイをもじって「ボリウッド」の異 名をとるムンバイが舞台だ。世界的大不況の中、ハリウッド資本はインドを手厚く遇したいのだ、との風評もあるが、娯楽性と社会性を兼ね備えた力作に仕上 がっている。

 ドラッグ・カルチャーを躍動的に映し、世界でヒットした「トレインスポッティング」のダニー・ボイル監督。SFも手がける、この英国の奇才は、同じ英国生まれの「クイズ$ミリオネア」を巧みに取り込んだ。

 スラム育ちの少年ジャマールは、学校に通ったことのないスラム育ちの孤児。だが、このクイズ番組で次々に正答し、ついに2000万ルピーを賭けた 最終問題に。不審がる司会者が手引きして警察が乗り出し、尋問と拷問を重ねる。いかさまか、それとも天才か。 少年の「自白」は三つの回想シーンの形をと り、真実が明らかになる。

 あばらやが密集する地域。ある日、対立する宗教の宗派が襲撃する。ジャマールと兄サリーム、独りぽっちだった少女ラティカは「三銃士」として力を 合わせて、成長する。が、孤児を強引に働かせ、搾取する大人から逃げる途中、別れ別れに。ジャマールは、生き別れたラティカと再会するため、クイズ番組に 出る。その間、ジャマールは大人に酷使され、虐待された友と慰め合い、銃で報復を図る。そうした波乱に満ちた日々をたどるような問題が偶然、出題され た…。スラム社会の暮らしの実情や貧富の差が肉付けされ、娯楽作である以上に社会作として仕上がった。時まさに、昨年11月にムンバイで同時テロがあった ばかり。この事件、当地ムンバイへの注目が高まる中で、この映画への関心も無論、高まった。

 改めて、「クイズ$ミリオネア」は、人間の感情をむき出しにしてみせると感じる。だからこそ、世界80カ国で人気を呼んでいるのだろう。貧しい少 年の大健闘に拍手を送る人々、嫉妬する人々。三つの助け舟「ライフライン」で、人と人とが信頼でつながり、温かい気持ちになる人…。

 こうした「クイズ$ミリオネア」の妙味を映画に取り込んだのは、初めてではない。

 仏の名匠パトリス・ルコント監督の近作「ぼくの大切なともだち」では、親友が1人もいない孤独な男が、恋人に裏切られて他人をいっさい信頼できな くなった男にライフラインの「テレフォン」をかける。助け、助けられる中で絆が身にしみる感動作だった。(アサヒ・コム編集部)

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