2009年2月11日水曜日

asahi shohyo 書評

宇宙論入門 [著]佐藤勝彦

[掲載]2009年2月8日

  • [評者]尾関章(本社論説副主幹)

■宇宙はなぜ、こんななのか

 宇宙の運命を牛耳る黒幕は文字通り暗黒の物質と暗黒のエネルギーらしい。世紀末に現れたこの見立ては観測にもとづく。「宇宙論は、今はっきりと、『論』から『学』となった」のだ。

 論を観測で試す時代の宇宙像を、円熟の物理学者が自らの半生を踏まえて語る。

 著者は約30年前、宇宙は誕生直後に急膨張したという理論を発表した。同様の理論を唱えた米国の研究者は、急膨張で宇宙は平らになったと踏み込んだ。平らとはイメージしづらいが、宇宙の未来にかかわる空間のありようだ。

 著者も同感だったが、当時の観測を踏まえるとそうは主張できなかったという。平らでも矛盾がなくなったのは世紀末に暗黒エネルギーなどの優勢がわかったからだ。「今から見ればたいへん悔やまれる」の一言に実感がこもる。

 宇宙論探究は、この宇宙はなぜこんななのか、と問う。

 急膨張の理論に立つと、宇宙はいくつあってもよい。最近の超ひも理論は、こんなではない宇宙も許容する。もしそうなら「私たちの宇宙は、無数の宇宙の中で偶然そのような物理法則と次元の宇宙だったので、人類が生まれ、今その宇宙を認識している」とみるほかないという。

 理系から、「偶然」をはらむ世界像の発信だ。文系とのガチンコ対話が聴きたい。

表紙画像

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