2009年1月20日火曜日

asahi shohyo 書評

若者はみな悲しい [著]フィッツジェラルド

[掲載]週刊朝日2009年1月23日号

  • [評者]温水ゆかり

■ジャズエイジには甘い恋愛があった

  戯曲を除き、各四冊の長篇と短篇集を遺したフィッツジェラルド(1896〜1940)。同冊なのは偶然ではなく、彼の短篇は各長篇と因縁深いのだとか。こ れらはクラスター(房とか星団)と呼ばれ、本短篇集は「ギャッツビー・クラスター」(訳者解説より)。こういう文学用語を覚えると得した気分になれます ね。

 イエール大学出の旧家の長男が、徒に年齢を重ねる無惨を描いた「お坊ちゃん」、美しい令嬢に恋した若者が、アメリカンドリーム の体現者になって聞く彼女の消息に昔日の夢をうち砕かれる「冬の夢」、南米で成功した男が、かつて自分を振った女性に媚態を示され、「同じ愛が2度あるこ とはない」と大人の判断を下す「『常識』」など計9篇。

 ジャズエイジの時代、思えば男も女もなんと無垢な欲望と礼節に生きていたことか。女は「わたしって、ほかの人よりきれいなんだ もの」「どうして幸せになっちゃいけないの?」と泣き(「冬の夢」)、騎士道精神を残す男はいろんな意味で「プロのお人好し」(「温血と冷血」)。現代な らゴーマン女とマヌケ男にしかならないが、最近思います。男女平等ってやつは恋愛小説から上質の甘さを奪ったって。読後、これもまたちょい悲し。

    ◇

 小川高義訳

表紙画像

若者はみな悲しい (光文社古典新訳文庫)

著者:F.スコット フィッツジェラルド

出版社:光文社   価格:¥ 780

0 件のコメント: