2009年1月24日土曜日

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小笠原に「希少昆虫の聖域」 環境省、囲い込み作戦

2009年1月24日15時2分

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写真母島中部の森に環境省が設置したフェンス=山本写す

写真大きな口でオガサワラゼミを食べる外来種のトカゲ「グリーンアノール」=写真家・尾園暁さん撮影

写真絶滅が心配されている天然記念物のチョウ「オガサワラシジミ」=写真家・尾園暁さん撮影

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 「東洋のガラパゴス」と呼ばれる小笠原諸島。その母島で、外来種のトカゲに食べられて希少な昆虫が絶滅しないよう、森をフェンスで囲って「聖域」をつく る試みが始まった。この半年で、フェンス内の外来種トカゲ約1千匹を駆除した。外から新たなトカゲは侵入できないはずという。

 今月上旬、母島を訪ねた。東京の都心から南に1千キロ余り。真冬とはいえ、日中の気温は20度を超す。

 母島中部の森に、その現場はあった。深い緑の森を分断するように、高さ1メートルほどの白いフェンスが続く。総延長は約1キロ。ステンレスの金網製で、約2ヘクタールの森を取り囲んでいる。環境省が昨年3月、約8800万円の工事費で国立公園内につくった。

 「アノールが登りにくいように、フェンスは少し外側に傾けてあります」。環境省の母島駐在員、柴崎文子さん(43)が教えてくれた。

 「アノール」。島の住民がそう呼ぶのは外来種のトカゲ、グリーンアノールだ。米国南東部が原産で、全長は15センチ前後ある。60年代に父島、80年代に母島に侵入した。グアム島からの貨物にまぎれて運ばれたか、ペットとして持ち込まれたのが原因らしい。

 小笠原には、この外来トカゲの天敵となる大型の鳥などが少ないこともあり、爆発的にふえた。両島の生息数は約600万匹と推計されている。

 小笠原でみつかった昆虫約1300種のうち3割は、世界でここでしかみられない固有の種類だ。しかし、グリーンアノールは国の天然記念物「オガサ ワラシジミ」や「オガサワラゼミ」など、貴重な固有種の昆虫を食い荒らし、激減させてきた。世界自然遺産登録をめざす小笠原にとって、悩みの種だ。

 神奈川県立生命の星・地球博物館の苅部(かるべ)治紀・主任学芸員は「父島にはかつて固有種のトンボが5種類いたが、90年代後半までにすべて絶滅した。その主犯はグリーンアノールだ」と指摘する。 

 環境省の委託を受けて研究を進める自然環境研究センターの戸田光彦・主席研究員は「本来は父島、母島の全域でグリーンアノールを駆除するのが理想だ。で も、多大な労力と時間が必要で、その間にも昆虫たちはどんどん減ってしまう」と語る。そこで、環境省は、限られた区域内での根絶をめざす現実的な策をとる ことにした。 

 フェンス内に生える木々の幹には、赤や茶色のプラスチック製の筒が、ひもで縛りつけてある。ゴキブリ捕獲器に似た粘着式のワナだ。これまでに約5 千カ所にとりつけた。グリーンアノールが筒の中を通ろうとすると、足がぺったり張りついて出られなくなる。約3日ごとに作業員が点検し、ワナにかかったも のを回収する。同じタイプのワナは、父島の港周辺にも約1千個設置されている。

 母島の森で、アノール駆除の作業員、山田孝雄さん(62)と出会った。昨年、多い時期には1日あたり50〜70匹が捕獲されたというが、「今日の捕獲は1匹だけ。冬で活動がにぶいこともあるが、フェンス内のアノールは確実に減っている」と語った。

 母島では、島中部の森のほか、南部の草原約2ヘクタールにも、昨秋までにフェンスとワナを設置した。環境省小笠原自然保護官事務所の中山隆治・首席自然保護官は「今回フェンスで囲った地区でグリーンアノールの根絶がうまくいけば、設置する範囲をさらに広げたい」と話す。

 市民団体「オガサワラシジミの会」は母島の森で昆虫の生息調査を毎月行い、フェンスによる昆虫保護の効果を確かめる方針だ。会長の植村和彦さん (34)は「オガサワラシジミは最近、1日中歩いても1、2匹しか見られないほど減ってしまった。次の世代に、なんとかして島の自然を残したい」と期待す る。(山本智之)



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