2009年1月22日木曜日

asahi shohyo 書評

太宰治生誕100年 "変わりダネ本"も続々刊行

[掲載]2009年1月18日

  • [評者]浜田奈美

  昨年は太宰治の没後60年だったが、今年は生誕100年。誕生日の6月には故郷の青森県五所川原市でNPO法人主催の「第一回太宰治検定」が予定されてお り、まもなく検定に向けた「公式テキストブック」も発売となるという。太宰本は出尽くした感もある一方で、その人気は根強いだけに、今年はこの種のマニ アックな"変わり種太宰本"が刊行ラッシュとなるかも知れない。

 「メロスぁうって怒(おご)った」(メロスは激怒した)——。『走(は)っけろメロス』は、青森県弘前市の音楽教師である鎌田 氏が津軽弁で『走れメロス』と『魚服記』を翻訳・朗読したCDブック。同氏は津軽弁こそが太宰の「内的言語」であり、津軽弁に翻訳することが太宰作品の 「成立についての解明にもつながり得る」と考えたという。

 『直筆で読む「人間失格」』は、ファン必見の書。美知子夫人が大事に保管していた完成稿をすべて掲載。200字詰め原稿用紙に並ぶ太宰のきまじめな文字、そして削除され、あるいは加筆された言葉が、『人間失格』の新しい表情を教えてくれる。

 『芥川賞を取らなかった名作たち』では、第1回候補になりながら受賞しなかった『逆行』を再検証。著者は太宰を私小説とは異な る「わたし語り」の技巧をこらした小説家と定義し、初期作品のこの作品にすでにその技巧が出ていると指摘する。吉田和明著『太宰治はミステリアス』(社会 評論社)は人間・太宰をさめた視線で見つめる著者が"太宰業界"に切り込む挑戦的な一冊。

 雑誌「東京人」増刊号では、太宰が亡くなるまで9年間を過ごした三鷹村(現三鷹市)の"風景"にこだわり、池内紀が文学散歩するなど「三鷹に生きた太宰治」を総力特集。ファンならずとも足跡をたどりたくなる。

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走っけろメロス (CDブック)

著者:太宰 治

出版社:未知谷   価格:¥ 2,625

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直筆で読む「人間失格」

著者:太宰 治

出版社:集英社   価格:¥ 1,470

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芥川賞を取らなかった名作たち

著者:佐伯 一麦

出版社:朝日新聞出版   価格:¥ 819

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太宰治はミステリアス

著者:吉田 和明

出版社:社会評論社   価格:¥ 2,100

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