2009年1月20日火曜日

asahi shohyo 書評

ウォーター・ビジネス [著]モード・バーロウ

[掲載]2009年1月18日

  • [評者]橋爪紳也(建築史家、大阪府立大学教授)

■三つの水危機が相乗する未来に警告

 三つの水危機が相乗し、私たちは悲惨な事態に直面すると著者は警鐘を鳴らす。

 第1の危機は、地球上の淡水が目に見えて枯渇している点だ。有限である水資源は浪費され、表層水や地下水はひどく汚染されつつある。

 第2の危機は、清浄な水に接することができない人の急増だ。河川や井戸の汚水が原因で死ぬ子供の数は、戦争、マラリア、HIV、交通事故で失う命の総数をしのぐ。

 第3の危機は、グローバル企業による水支配がもたらす。資本家はボトル詰めの水を世界中で売りさばき、パイプラインで他に水を供給するビジネスを展開している。

 このままでよいはずがない。著者は私たちの想像力に訴えかける。2050年には17億人もが極度の「水欠乏」で苦しみ、土地を 捨てる「水難民」が増えるという予測がある。格差も開くばかりだ。現在でも、北米では1人平均600リットルの水を1日に消費するが、アフリカでは6リッ トルでしかないという指摘が印象的だ。富裕層はボトルウオーターに頼りきり、貧しい人は安全な水を得ることがいっそう困難になるだろう。水資源をめぐる国 際紛争も激しさを増すしかない。

 危機から脱する具体策として、著者は本書の原題でもある「ブルー・コヴナント」、すなわち「水条約」の締結を提案する。この国 際条約では、水源を確保する「水保全条約」、水資源に恵まれた国と持たない国が連帯する「ウォーター・ジャスティス条約」、誰もが水にアクセスする権利を 基本的人権とみなす「水デモクラシー条約」の3要素を含むべきだという考えを示す。

 水は人類共有の自然資源だが、その所有と配分は公平ではない。そこに公正さを求める「ウォーター・ジャスティス・ムーブメン ト」を、草の根のコミュニティーから国家間のレベルにまで広げるべきだという著者の思いに共感する。世界に誇る公営水道網を整備した日本だからこそ、貢献 できることも多いのではないか。水にかかわるビジネスに携わる人に、ぜひ読んで欲しい。重要な問題提起の書だ。

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 BLUE COVENANT

 Maude Barlow 47年生まれ。カナダ在住。環境問題の評論家。

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