2009年7月13日月曜日

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「子の命は」親心明暗 「脳死は人の死」成立

2009年7月13日16時12分

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写真:子どもも臓器提供者になれるような法改正を求めて署名活動をする中沢奈美枝さん夫妻(右2人)=3月20日、JR横浜駅前子どもも臓器提供者になれるような法改正を求めて署名活動をする中沢奈美枝さん夫妻(右2人)=3月20日、JR横浜駅前

写真:生後2カ月で脳死に近い状態になった遙ちゃん(2)=7月11日、東京都内生後2カ月で脳死に近い状態になった遙ちゃん(2)=7月11日、東京都内

 「脳死は人の死」を前提に、15歳未満の臓器提供に道を開く臓器移植法改正A案が13日午後、参院で可決された。法制定から約12年。年齢制限の撤廃を強く求めてきた家族や支援者が胸をなで下ろす一方、脳死に近い状態が続く子どもの家族らは肩を落とし、明暗が分かれた。

■息子の死「意味あった」

 横浜市の中沢奈美枝さん(34)は13日午後、参議院で臓器移植法のA案が可決され、成立した瞬間、参議院の傍聴席で、感極まった様子でハンカチで涙をぬぐった。夫、啓一郎さん(37)はその背中にそっと手をあてて、涙を浮かべた。

 現行法には施行3年後の見直し規定があるのに、法改正に12年かかった。その間に、長男、聡太郎ちゃん(1)ら多数の子どもたちが、国内で移植が受けられずに亡くなった。

 心の中で謝った。「聡ちゃんたち、ごめんね。法改正がこんなに遅くなって……」

 重い心臓病で移植が必要だった聡太郎ちゃんは昨年12月に亡くなった。米国での移植を決めて渡航した直後だった。

 米国の病院の医師から「どうして日本人の子はいつも、こんなに状態が悪くなってから来るのか」と聞かれた。必要な医療費約2億円が募金で集まるまで来られなかったと説明すると、驚かれた。

 渡航移植を決めるまで、夫妻で何カ月も迷った。米国人患者の枠が一つ減る、募金額が息子の命の値段にならないか……。日本移植学会の市民公開講座で、心臓移植を受けて元気に走り回る子をみて、決心した。「聡太郎の病気が治る可能性に賭けたい」

 肌身離さずつけている銀のネックレスに通した、しずく形の容器には、聡太郎ちゃんの遺灰が入っている。

 米国の火葬場で遺灰を受け取った時のことが忘れられない。ポリ袋に入れられて、無造作に手渡された。

 帰国後、「私たちの体験を繰り返して欲しくない」と強く思った。15歳未満の子どもの臓器提供を認めるような移植法の改正を求める活動を始めた。街頭で署名を集め、国会議員に陳情した。

 「A案が成立しても聡太郎は帰ってこない。でも、これ以上、同じ悲劇を続けて欲しくなかった。聡太郎の死にも大きな意味があると感じました」(大岩ゆり)

■「娘、死亡宣告されたよう」

 生後2カ月から「脳死に近い状態」にあるという東京都の遙(はるか)ちゃん(2)の父(43)は、13日午後、自宅でインターネット中継で採決の様子を見守った。

 A案の可決、成立という結果に、「生きている娘が死亡宣告されたように感じる」と落胆した。「娘は脳死判定を受けていないが、『意識もない子を生かして おくのはかわいそう』『臓器提供して他の子を助けてあげればいい』という雰囲気が世の中で強くなっていくと思う。それがこわい」

 07年5月に生まれた遙ちゃんは、13番目の染色体が1本多い「13トリソミー」を患う。このため、唇や上あごが形成されていない「口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)」と、心臓の左右の心室を隔てる壁に穴がある「心室中隔欠損」という重い障害とともに生まれた。 

 生後2カ月の時、ミルクをのどにつまらせ、心肺停止で病院に運ばれた。脳死判定は受けていないので脳死状態かは分からない。ただ、医師からは「脳細胞のほとんどが死んでいる。回復は望めない」と告げられた。

 それでも心臓は動き続けた。08年4月に退院して自宅に戻った。窓から柔らかな光が差し込む居間に置かれたベビーベッドの上で、遙ちゃんは人工呼吸器と栄養補給のチューブをつけて眠る。

 出生時に2529グラムだった体重は、8.9キロ、身長も26センチ伸びて75センチになった。おでこや足をなでられると、体を伸ばし唇を少し開く。医師は「反射」というが、両親には「気持ちいい」という意思表示に見える。

 臓器移植をしなければ生きられない人を助けたいとは思う。しかし、小児救急体制の充実やドナーカードの普及、過去の事例の検証結果の公表など、両親は「改正の前にやるべきことはたくさんあったはず」と指摘する。(南宏美)




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