2009年7月3日金曜日

asahi culture literature history Genjimonogatari 54 manuscript Byodoin Hoodo Kyoto

「源氏物語」平成の写本 平等院に奉納「宝に」

2009年7月2日

  平安の王朝美をよみがえらせた「源氏物語」五十四帖の写本が、このほど京都・宇治の平等院に奉納され、6月20日、鳳凰(ほうおう)堂の国宝・阿弥陀如来 坐像(あみだにょらいざぞう)の前で法要が行われた。千年生き続けてきた物語の、平成の写本だ。古筆学者の小松茂美さん(84)が、「紙、筆法ともこれだ け見事な写本は、どこかに残さねば」と高く評価して、平等院への仲立ちをした。

 写本を作ったのは書家の右近正枝さん(65)。この30年ほど小松さんに師事して平安の古筆を学んできた。仮名文字の書家にとって「源氏物語」筆写は究極の目標といい、技術、健康が充実しているうちにと4年前、思い立った。

 必要なのは紙、筆、墨だ。小松さんの指導で料紙作家の大貫泰子さん(79)に紙の製作を依頼。大貫さんは継ぎ紙、色紙、金銀の 切箔(きりはく)・砂子など平安以来の技を駆使した写経料紙1100枚を、1年半で作りあげた。筆は、十五世藤野雲平作の紙巻(かみまき)筆を150本、 墨は30〜40年前に作られた国産の油煙墨を用意した。

 料紙は模様や色、表裏も異なるので2200面になる。右近さんもまた1年かけ、五十四帖を写した。岩波書店の日本古典文学大系 をテキストにし、漢字はなるべく仮名に置き換えた。一帖ごとに「粘葉装(でっちょうそう)」という綴(と)じ方で製本。紫式部が物語を書き、藤原道長や中 宮彰子に献上されたのは、こんな本だったかと想像させる美しさだ。

 平安の技法で作られた紙に、平安の筆法で完写した「源氏物語」は例がないだろうと小松さんは言う。「これぞ、仮名の姿」と。

 平等院の神居文彰住職は、「単に千年前をトレースするのではなく、新しい『源氏』が生まれたととらえている。次の千年のため、平等院がある限り、寺の宝物として残したい」と語る。

 「宇治十帖」の故地に、千年前に造られた鳳凰堂での法要。右近さんの感想は、「夢のようです」だった。(大上朝美)




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