「吉里吉里人」刊行30年 井上ひさし、あせぬ問題提起
2009年6月3日
東北新幹線もなかったある年の6月上旬、東北の小村でとつぜん起こった分離独立さわぎをおぼえていますか? 小説の中でのことですが。
いま仙台文学館で「井上ひさし」展が開かれている(7月5日まで)。そこで81年刊行の長編小説『吉里吉里人』(新潮社)をもとに、楽しい展示をしている。
物語では日本の農業政策のでたらめさや憲法軽視の動きに怒った村が、100%の食糧自給率、最先端の医療技術、ばくだいな埋蔵 金、地熱発電所などをもとに、日本からの独立を宣言、吉里吉里国となる。独立が認められるための国際条約、国家と言語の関係、農業、経済などの現代的問題 が提示され、地域おこしの「独立国」ブームにも火をつけた。
「吉里吉里国再発見」と題し、作者の描いた地図やプロット原稿を展示し、木炭で走るバス「国会議事堂車」、国語となった東北の 方言で訳された「坊っちゃん」「雪国」などを並べたお店、吉里吉里国立病院などをかきわり的に再現。吉里吉里国立劇場では日によっては井上作品の朗読イベ ントも開かれている。
過日、井上さんが執筆動機などを語る講演があった。戦後のコメ不足が解消されたあと、国は減反政策に転じ、農家を圧迫し始め た。また日本国憲法改正の動きが強くなったことに危機を感じて、「憲法と農業を大事にする国があったなら」と想像したのがきっかけ、とふりかえった。軍隊 をもたない吉里吉里国が、どのように日本国とむきあうかに苦心したという。
物語の中では、独立の夢はあっけなく破れた。現実には、農業だけでなく地方の疲弊は全体にすすみ、憲法改正の動きもこの30年で強まった。情報化社会では英語の重みが増した。提起された問題は古びていない。
もし「21世紀吉里吉里人」があるとしたら? 井上さんに尋ねてみた。
「あのころは、ぼくも国家の存在を、当然のこととして考えた。現在は、お金の動きや人の動きが激しくなって、国境も国家もあい まいになっている。地球全体で、それぞれの言語、環境をしっかり守ることのできる、いいナショナリズム、ローカリズムを考えるものになるでしょうね」(由 里幸子)
- 吉里吉里人 (上巻) (新潮文庫)
著者:井上 ひさし
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- 吉里吉里人 (中巻) (新潮文庫)
著者:井上 ひさし
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- 吉里吉里人 (下巻) (新潮文庫)
著者:井上 ひさし
出版社:新潮社 価格:¥ 740
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- 坊っちゃん (新潮文庫)
著者:夏目 漱石
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- 雪国 (新潮文庫 (か-1-1))
著者:川端 康成
出版社:新潮社 価格:¥ 380
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