吉本隆明 全マンガ論—表現としてのマンガ・アニメ 吉本隆明さん
[掲載]2009年7月26日
- [文]浜田奈美 [写真]高山顕治
吉本隆明さん(84)
■へええなるほどなあって思う
かの吉本隆明は、マンガやアニメにまで、思索を深めていたのだった。
本著は78年から00年にかけて雑誌などに寄せた18本の文章を収録。つげ義春の作品世界を語り、『ちびまる子ちゃん』から言 語の変容を考え、『新世紀エヴァンゲリオン』について評論家の大塚英志に解説を求め、その子細な分析にうなずき、「たいへん啓蒙(けいもう)されました」 と感想を述べたりしている。
興味深いのは、この思想家が少女漫画界の「御三家」とされる竹宮恵子、山岸凉子、萩尾望都の作品を「純文学に近い」ととらえ、 多くの作品を読み込んでいたことだ。81年の萩尾との対談でも、「相当思い切った内面性を表現してる」「本質的な不安感みたいのを読者に与える」と積極的 に発言。こう振り返る。「あの人たちは相当深くほかの分野のものを読んだり考えたりして、蓄積してるんでしょうね。そして、圧倒的多数の読者に支持されて る自負心というか、威風堂々たる雰囲気があってね。こちらはそんなものないから、もたもたするばっかりで」
そしてこれほどの大家でも、本業と少し離れた分野の仕事は「見当違いにならないように用心深く、抑制して」かかるそうだ。アニ メ・マンガの分野は、漫画家で長女のハルノ宵子さんに示唆を求めてきた。「例えば『ドラえもん』ですね。人気の理由がわからなくて聞いたら、『平凡な日常 がすごく上手に描かれているんだよ』ってことでね。自分なんかはつい特異なことに目が行きがちなもんですから。へええなるほどなあって思うわけです」
現在84歳。マンガやアニメに関する仕事は「年の加減もありますし、マンガについては、しめくくっていいだろうって思います ね」。そして少々照れくさそうに、こう続けた。「ただ、意外にしぶとく長生きするってこともあるわけですから、あるいは、続編ってことも、あるかも知れま せんねえ」
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