2009年7月28日火曜日

asahi shohyo 書評

霊と金—スピリチュアル・ビジネスの構造 [著]櫻井義秀

[掲載]週刊朝日2009年7月24日号

  • [評者]海野弘

■"お手軽"になったスピリチュアル

 またスピリチュアルがひそかなブームとなっているのだろうか。先日、印鑑を売る霊感商法の摘発がニュースになっていた。

 また、というのは1990年代のオウム事件をピークとする新宗教ブームが思い出されるからだ。その記憶は失われつつあるが、スピリチュアルは消えたわけではなく、なにげない日常のうちに広がりつつあるらしい。

 それは、健康志向とか心の癒やしとか、だれでも受け入れられるきっかけを通して流れこんでくる。現代人の心のすきまに入りこんでくるので、かえって厄介だ。

 この本は、そのような現代のあいまいな精神状況を利用したスピリチュアル・ビジネスを語っている。結局、万事が金の時代であり、スピリチュアルも金もうけと結びつき、しかも最ももうかるビジネスであるらしい。

 私もかつてヒーリングやセラピーに興味を持って『世紀末シンドローム』を書いたことがある。1970年代の〈ニューエイジ〉と 呼ばれた現象の見取図を知りたいと思ったのである。この本を読むと、〈ニューエイジ〉は消えたわけではなくて、むしろさまざまに形を変えて生きつづけてい るらしい。

 その後の特徴は、お手軽になったことだ。ダイエットを例にとると、苦しいトレーニングはいやがられ、なにもせずやせられる、といった方法がはやるのである。

 なぜ楽なヒーリングが好まれるのか。「それに対する1つの解答は、現代人が不可抗力である事態にたじろいだ際に、それを受け止める度量も世界観も失っているからではないか、と筆者は考える」

 リスクに立ち向かうことができず、安直な癒やしに逃れ、金を巻き上げられてしまう。ではどうしたらいいのか。リスクと対決する 世界観を育てる教育の必要性を著者は考えている。スピリチュアル・ビジネスへの無抵抗は、教育の欠陥を示しているのだ。セラピーにのめりこむのは、大学が 人間形成の役割を果たしていないからだ。大学教育の危機論としても読むことができる。

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