霊と金—スピリチュアル・ビジネスの構造 [著]櫻井義秀
[掲載]週刊朝日2009年7月24日号
- [評者]海野弘
■"お手軽"になったスピリチュアル
またスピリチュアルがひそかなブームとなっているのだろうか。先日、印鑑を売る霊感商法の摘発がニュースになっていた。
また、というのは1990年代のオウム事件をピークとする新宗教ブームが思い出されるからだ。その記憶は失われつつあるが、スピリチュアルは消えたわけではなく、なにげない日常のうちに広がりつつあるらしい。
それは、健康志向とか心の癒やしとか、だれでも受け入れられるきっかけを通して流れこんでくる。現代人の心のすきまに入りこんでくるので、かえって厄介だ。
この本は、そのような現代のあいまいな精神状況を利用したスピリチュアル・ビジネスを語っている。結局、万事が金の時代であり、スピリチュアルも金もうけと結びつき、しかも最ももうかるビジネスであるらしい。
私もかつてヒーリングやセラピーに興味を持って『世紀末シンドローム』を書いたことがある。1970年代の〈ニューエイジ〉と 呼ばれた現象の見取図を知りたいと思ったのである。この本を読むと、〈ニューエイジ〉は消えたわけではなくて、むしろさまざまに形を変えて生きつづけてい るらしい。
その後の特徴は、お手軽になったことだ。ダイエットを例にとると、苦しいトレーニングはいやがられ、なにもせずやせられる、といった方法がはやるのである。
なぜ楽なヒーリングが好まれるのか。「それに対する1つの解答は、現代人が不可抗力である事態にたじろいだ際に、それを受け止める度量も世界観も失っているからではないか、と筆者は考える」
リスクに立ち向かうことができず、安直な癒やしに逃れ、金を巻き上げられてしまう。ではどうしたらいいのか。リスクと対決する 世界観を育てる教育の必要性を著者は考えている。スピリチュアル・ビジネスへの無抵抗は、教育の欠陥を示しているのだ。セラピーにのめりこむのは、大学が 人間形成の役割を果たしていないからだ。大学教育の危機論としても読むことができる。
- 霊と金—スピリチュアル・ビジネスの構造 (新潮新書)
著者:櫻井 義秀
出版社:新潮社 価格:¥ 777
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