2009年7月13日月曜日

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役目終えるコロナ観測所 小ドームに息づく命がけの軌跡

2009年7月13日18時43分

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写真:滑車の鎖を引っ張ってドームの天井を開ける末松所長。開設当初からある小ドームの内側は木で造られている滑車の鎖を引っ張ってドームの天井を開ける末松所長。開設当初からある小ドームの内側は木で造られている

写真:乗鞍コロナ観測所。ドームの一部の塗料が落ちている。長野と岐阜の県境に立ち、内部の廊下がちょうど県境に位置するという。手前の階段の上が見学者ルームだ乗鞍コロナ観測所。ドームの一部の塗料が落ちている。長野と岐阜の県境に立ち、内部の廊下がちょうど県境に位置するという。手前の階段の上が見学者ルームだ

写真:畳平駐車場から見えるコロナ観測所。雪渓の上で銀色に光るドームが観測所だ畳平駐車場から見えるコロナ観測所。雪渓の上で銀色に光るドームが観測所だ

 日食で太陽が完全に隠れた時に見えるリング状の輝き、それがコロナだ。そのコロナを特殊な望遠鏡で常時観測してきた日本では唯一の国立天文台「乗鞍コロ ナ観測所」が今年度中に閉鎖されることになり、実際の観測は今年10月に終了する。49年の開設から60年を経て、文字通り最後の夏山シーズンを迎えよう としている観測所の中を、末松芳法(よしのり)所長(53)の案内で3日、報道のため特別に見せてもらった。

 観測所は、乗鞍のいくつもある峰の一つ摩利支天岳(2876メートル)の山頂にある。観光バスの終着点、畳平駐車場から見上げ、銀色に輝く丸いドームが観測所だ。

 ドームは二つ。口径25センチの望遠鏡コロナグラフが入っているドームは直径12メートル。口径10センチの新旧二つのコロナグラフが入った小さ なドームは直径4.6メートルだ。この小さな方が、観測所の設立当初からあるドームだ。案内されて驚いたのは、内側はすべて木造り。入り口も木の階段で、 登ればぎしぎし音がする。

 97年までは冬季も観測が続けられていた。末松所長によると、冬場は、ドーム上の雪を落とすため、命づなを着けての作業から始まったという。観測に適した日の出直後を狙うため、雪落としは真冬の日の出前に行われた。まさに「命がけの観測」だった。

 見学者ルームには、当時の日誌の写しもある。50年1月の日誌には「数日、吹雪に終始。風はたいしたものではない。寒気が加わる。夜半一層冷える」などと書いてある。

 60年に及ぶ観測がもたらした成果の一つが、太陽活動の11年周期を観測データで確認したことだという。92年7月には、90万キロに及ぶコロナの巨大噴出を画像でとらえた。

閉鎖の一番大きな理由は観測機器や施設の老朽化だ。06年9月には、新たに打ち上げられた太陽観測衛星「ひので」から、X線を使ってより広範囲の観測データが得られるようにもなった。

 ただ、「ひので」の観測プロジェクトにも中心的にかかわってきた末松所長は「地上でしか得られないデータもある」と指摘。観測所が閉鎖されるまでだが、導入されたばかりの赤外線カメラで本格観測はこれから始まる。

 観測所最後の所長となる末松さんは「施設を閉じることに寂しさはある。しかし、どんなものにもいつか寿命はくる。地上における新たな望遠鏡づくりをめざしていきたい」と静かな決意をみせる。

 見学ルームは常時開いていて、太陽観測の全体像がわかるビデオも上映されている。見学者が感想などを記すノートもあり、山頂の観測所に足を踏み入れた喜びが手書きでたくさん記されている。(中沢一議)




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