2009年7月28日火曜日

asahi shohyo 書評

歌舞伎町・ヤバさの真相 [著]溝口敦

[掲載]週刊朝日2009年7月31日号

  • [評者]青木るえか

■巡ってみたいが、いかにも危なっかしい

  実際のところの歌舞伎町の怖ろしさというのはよくわからない。私の知ってる新宿だと、40年ぐらい前、アルタ(昔はスーパーの二幸だった)前のところに若 者がたむろってシンナーを吸っていた姿というのがあり、あっちのほうがコワかったという記憶がある。歌舞伎町でいろいろと犯罪が起こっているというのは ニュースとして知ってはいても、『新宿鮫』とか『歌舞伎町の女王』とか、どこかフィクションの世界みたいに思っているところがある。

 で、この本には、40年前の新宿駅前のコワさのようなもの(なんだか話の通じない人たちが、わけのわからないことをやってい て、余計なちょっかいをかけるとすごくアブナイ、というような)が今の歌舞伎町にはきっちりとあり、そしてそれはどのようにして今のような状況に育ったの か、ということが書いてある。読み終わって、歌舞伎町に行く機会もないのにすっかりコワくなってしまった。

 最初は「新宿区の花」であるツツジのことから説き起こされる。なぜツツジが新宿の花なのか。そしてそのツツジと、現在の歌舞伎 町の「暴力」とのつながり。これには深く感心してしまった。ツツジって、日本の花とは思えないほどハデでギトギトな色をしているが、その日本のワビサビか らかけ離れたハデさと、日本の中の外国と言われる歌舞伎町とは、ちゃんと歴史的につながりがあったのだ。私もこんど上京する時にはぜひ百人町のあたりを歩 いてみよう。

 そう、ある種の「街歩きガイドブック」としてもこの本は面白いのだ。現在の歌舞伎町の地図に昔の地図を重ねて、「このあたりは 昔沼だった」「ここで大量のヘビを殺した」「このへんに闇市マーケット」「遊女の墓」なんかの位置を教えてくれる。ヤクザや外国人が不当なカネを儲ける 街。そんな街に残る遺蹟。すごく巡ってみたい。でもいかにも危なっかしい。といってはとバスツアーなんかじゃ感じが出ないしなあ。やはり歌舞伎町を楽しむ には身を張らないとダメか。

表紙画像

歌舞伎町・ヤバさの真相 (文春新書)

著者:溝口 敦

出版社:文藝春秋   価格:¥ 809

表紙画像

新宿鮫 (光文社文庫)

著者:大沢 在昌

出版社:光文社   価格:¥ 620

0 件のコメント: