2009年7月7日火曜日

asahi shohyo 書評

軽石—海底火山からのメッセージ [著]加藤祐三

[掲載]2009年7月5日

  • [評者]瀬名秀明(作家)

■地球のダイナミックな活動と直結

 子供のころ、海辺で軽石を見つけるとうれしかった。家に持ち帰って色を塗ったり、彫刻刀で削ったり、風呂に浮かべて遊んだりした。そんな懐かしい思い出が、本書を読んで地球のダイナミックな活動と直結した。

 地下のマグマが海底で噴出し、細かな気泡を取り込んで固まった岩石が軽石だ。沸騰するような爆発でガスと共に噴き上がる大量の 軽石は、海流に乗って大海原を漂流する。30年前、沖縄に赴任したばかりの著者は海辺で軽石を拾い、どこから来たのかわからないこの石に地質学の新たな地 平を見出(みいだ)す。漂う軽石の分布は日本近海の海流の動きを鮮やかに解明し、海底火山の位置を照らす。付着したサンゴやカキは軽石の一生を暗示する。 ひとつひとつ丹念に標本と向き合う著者の語り口はほんのりと温かくてひき込まれる。

 なかでも興味深いのが沖縄トラフに横たわる、腐った材木にそっくりの軽石だ。浮かぶことのないこのふしぎな軽石を求めて、著者は「しんかい2000」に乗り込み、深さ1800メートルの暗黒へと潜ってゆく。

 巻末の野外観察・室内実験の手引も含め、世界への愛情に満ちた一冊だ。

表紙画像

軽石—海底火山からのメッセージ

著者:加藤 祐三

出版社:八坂書房   価格:¥ 2,520

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