2009年7月3日金曜日

asahi shohyo 書評

人道に対する罪 [著]前田朗

[掲載]2009年6月28日

  • [評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

■「比較不能な悲劇」に向き合う

 自らの主張を前面に出しながら、「人道に対する罪」の歴史的解釈とその流れ、そして現在の国際刑事裁判所を軸にしての法的な枠組み、民衆法廷の果たすべき役割などを論じている。

 分析、解説、提言の部分をより分けて読んでいくと、本書のもつ重さがわかってくる。

 著者によると、「人道に対する罪と呼ぶべき犯罪には数百年の歴史がある」と言い、しかし「長い間、人道に対する罪の責任を追及 するための条約は存在しなかった」そうだ。ニュルンベルク裁判ではまだ一面的で、その定義は旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所の規程によって具体的に限定さ れたという。二十一世紀に入ってやっと要件が固まったことになる。

 人類史において、人道への罪やジェノサイドは、ホロコーストや南京大虐殺、ヒロシマ・ナガサキなど幾つもあり、これらは「比較 不能な悲劇」だからこそ、被害実態を抉(えぐ)りだし、真摯(しんし)に向き合うことが必要とも説く。その点での日本社会の甘さも平易に指摘している。

 本書はあえて第五章、第六章に目を通し、そして第一章へと読み進むほうがわかりやすい。

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