2009年2月3日火曜日

asahi shohyo 書評

進学格差 深刻化する教育費負担 [著]小林雅之

[掲載]2009年2月1日

  • [評者]耳塚寛明(お茶の水女子大学教授・教育社会学)

■無理する家計はもはや限界と警鐘

 地味な本である。けれども、進学格差の拡大を防ぐための教育費負担の問題、特に授業料と奨学金のあり方について丁寧に実態をおさえ、国際比較の俎上(そじょう)に日本をあげて課題解決の方途を探った好著である。浮かび上がった事実は明快で、課題は重い。

 大学4年間に要する学費と生活費の合計は少なくとも400万円、私立大学にアパートから通えば1千万円。いまや大学進学は持ち 家に次ぐ人生で2番目に高い買い物となった。当然、これだけの大きな買い物をする能力には格差がある。国公立大学の場合はさほどではないものの、私立大学 進学率には所得階層による大きな格差がある。しかも家庭の所得は他方で学力にも影響するので、低所得層は大学進学において二重のハンディキャップを負う。 にもかかわらず進学格差がさほど社会問題化しなかったのは、無理を家庭(親)が背負い込んできたからにほかならない。しかし無理する家計はもはや限界、進 学格差は拡大すると著者は警鐘を鳴らす。

 先進国では共通して、高等教育の大衆化と公財政逼迫(ひっぱく)の中で、教育費の公的負担から私的負担への移行、授業料の無償 から有償化さらに値上げ、奨学金の給付からローンへの転換が進む。「高授業料低奨学金」型の日本は、国際的トレンドのトップをひた走る。高等教育費の公的 負担比率は、OECD加盟国中最低水準にある。このまま私的負担への移行が続けば、そのしわ寄せは低所得層に集中する。経済成長が期待できない日本でこの 隘路(あいろ)から逃れる術(すべ)はどこにあるのか。

 著者は、給付奨学金制度や寄付金を活用した大学独自の奨学金などの創設を提案し、また教育に対する機関補助(国立大学運営費交 付金や私学助成など)と個人補助(奨学金)を包括するファンディング・システムを構想する。それらは必ずしも歯切れがよいわけでもなく即効薬ともいい難い けれども、現情勢下でこれ以上の提言を責任を持って提示できる人はいない。教育機会の均等はいかにして可能か。世代を超えて模索しなければならない課題で ある。

    ◇

 こばやし・まさゆき 53年生まれ。東京大学教授。共著に『世界の教育』など。

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