2009年2月6日金曜日

asahi shohyo 書評

旅好きオヤジの自転車巡礼記 [著]小林建一

[掲載]2009年1月28日朝刊

■なぜか人に優しくなれる旅

 早期退職をした熟年男性が、自転車で日本とスペインの巡礼地を旅した体験記である。つづられているのは、年代も境遇も関係ない、旅する喜び。一期一会のうれしさが伝わってくる。

 とくに信仰心があついわけでもない著者が巡礼を思い立ったのは、20年前のこと。坂東三十三カ所観音霊場巡りから始まり、秩父 三十四カ所札所、そして本書に収められた四国お遍路の旅につながっていった。民俗学をのぞいているような胸躍る気持ちと、お参りした後の安らかなる心が交 じり合い、巡礼旅にはまったのだという。その延長で、カトリックの聖地であるスペインのサンチャゴ・デ・コンポステラまで、パリから自転車で目指した。特 別にドラマチックなことが起こるわけでない。厳しい道のりを、ひたすら自転車をこいで先へ進む旅行記である。そこにえも言われぬ味わいがあるのは、人との 触れ合いがほどよい温度でつづられているからだろう。四国で施しをしてくれたおばさんの微笑や、日本人と聞いて大はしゃぎするヨーロッパの若者たちが、達 者なスケッチのように描かれている。スペインで同宿となった巡礼者を見て著者は思う。

 「巡礼を続け、だんだんと無垢(むく)、無欲になっていくと、人の顔が優しく美しくなってくる」。旅好きとは人好きなのだと実感させる、さわやかな読後感である。

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