2009年8月9日日曜日

nishinippon shasetsu 20090809

長崎原爆の日 君たちの声は、きっと届く

2009年8月9日 11:27 カテゴリー:コラム > 社説

 この夏、君たち長崎の「高校生一万人署名活動実行委員会」にとって、この上ない朗報が届いた。

 米国の高校から賛同の署名−。

 核兵器廃絶と平和な世界を求める活動の9年目、長崎に原爆を投下した核超大国の若者たちが初めて署名を集めてくれたのだ。

 君たちは1月、米国で核軍縮を唱えるオバマ大統領が誕生すると、全米50州の100校に手紙と署名用紙を送ろうと思い立った。郵送作業を始めた4月、大統領はプラハで「核兵器のない世界を目指す」と宣言した。

 署名に応じたのはいまのところ1校だが、送った用紙より16人分多い66人分だ。別の1校からは「これから署名を集める」とのメールが届いた。

 「これまで不安や疑問を抱きながら活動してきた。でも空気が変わった。いまは期待と希望に支えられています」。成瀬杏実(あんみ)さん(長崎西高3年)は実行委50人の思いを代弁する。

 それは「長崎を最後の被爆地に」と願って活動してきた大人たちの心境でもある。

 ●ずっしりと重い署名簿

 君たちの長崎は、きょう64回目の原爆の日を迎える。

 平和祈念式典で田上富久市長が読み上げる長崎平和宣言も潮流の変化をとらえて、核兵器保有国の指導者の長崎訪問を求め、オバマ大統領のプラハ演説への支持を世界に呼び掛ける。

 君たち実行委は既に、市民団体とともにオバマ大統領の長崎訪問を求めて署名活動を展開している。

 大統領が原爆資料館を訪れ、爆心地に立つことを君たちは願っている。かろうじて生き残った被爆者たちと少しでも向き合ってくれたなら、プラハ演説が実行段階に入ると信じている。

 長崎では4年に1度の平和市長会議総会が開かれている。世界3047都市が加盟し、今回の参加は142都市の約300人と過去最多。核兵器廃絶への機運の高まりを示すもので、長崎発の有効なアピールが期待される。

 「被爆地に生まれたからこそできること、言えることがある」

 かんかん照りの夏に帽子もかぶらず、寒風が吹く冬にコートも羽織らず、君たちは毎週末、長崎の街頭で署名活動をしている。

 大人の指示は受けず、活動内容は自分たちで決めてきた。活動開始以来、署名は50万人分に達した。

 被爆地の市民が一様に協力的とは限らない。「署名にどれだけの意味があるのか」「戦争のことを知っているのか」と叱責(しっせき)されたこともあった。

 しかし、署名をしながら平和への思いを語ってくれる人たちがいる。実行委メンバーの祖父母や、そのきょうだいの多くが被爆している。

 「署名簿は、その数の多さだけでなく、長崎の人たちの核兵器廃絶への願いが託されているからこそ、ずっしりと重い」。実行委の大渡ひかるさん(活水高3年)の言葉に共感する。

 大渡さんは第12代高校生平和大使の一人。この秋、ジュネーブの国連欧州本部に今年の署名簿を届ける。

 ●被爆地で「ノーモア」と

 長崎原爆の日のけさ、君たちは爆心地公園で若者の集いを開き、街頭署名活動や小学校での講話にも臨む。

 平和市長会議では非政府組織(NGO)との交流会に招かれて活動報告をする。内外の人々が、いまや長崎の核廃絶・平和活動の一翼を担う君たちの熱気に心動かされることだろう。

 署名活動は既に、韓国や南米に広がり、300人に近い先輩たちが日本各地や留学先で原爆展を開いたり、平和団体を結成したりしている。

 実行委発足時からのスローガン「微力だけど無力じゃない」は、まったく本質を突いた言葉だ。

 昨年は被爆者証言DVDを制作し、海外の指導者たちに送った。今年は大分県別府市の立命館アジア太平洋大(APU)の留学生たちと、平和について考える相互訪問交流をスタートさせた。留学生たちは長崎原爆のことを母国に伝え始めている。

 当面の目標はオバマ米大統領の長崎訪問だ。少し気になるのは、広島との連携が十分でないことだ。活動はそれぞれであっても、訪問の呼び掛けは共にする方が大きな力になる。

 高校生同士で共同アピールを出したらどうだろう。君たちの声は、きっと大統領に届くだろう。

 大統領に長崎と広島に来てもらい、「ノーモア・ナガサキ」「ノーモア・ヒロシマ」「ノーモア・ヒバクシャ」へ行動すると宣言してもらおう。

 わたしたちも志を強くして君たちを支援したい。


=2009/08/09付 西日本新聞朝刊=




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