2009年8月11日火曜日

kinokuniya shohyo 書評

2009年08月09日

『At the Center of the Storm』George Tenet, Bill Harlow(HarperCollins)

At the Center of the Storm →bookwebで購入

「元CIA長官が語るブッシュ政府の内幕」


 アメリカがイラク戦争を始めた頃、ブッシュ政権は戦争に対する国民の支持を得るため究極的なメディア操作をおこなった。

 それは、政府内の要人が戦争を正当化する情報をメディアに漏洩する一方で、テレビなどで政権の担い手がそのメディアの信憑性を楯に情報を操作する手法だ。

 その手法とはこうだ。例えば、 議事内容が秘密となる高レベルの政府会議で、イラクとアルカイダに強い繋がりがあるという見方もあると政府の高官が口にする、またはそれに近い内容のことを口にしたとする。

 その数日後には、その高官がイラクとアルカイダの関係を証明する発言をしたという情報になって大手新聞社の記者にリークされる。

 記者はこのリーク情報をもとに政府会議で高官がイラクとアルカイダに強い繋がりがあると発言したという記事を書く。記事自体はその繋がりが証明されたという内容ではないが、高官がそう発言したこと自体がニュースなので高官の発言記事として掲載される。

 その後、テレビに出た副大統領や国務長官が「大手新聞がイラクとアルカイダに繋がりがあるという報道をしている」と語り、自分たちの有利になる情報をメディアお墨付きの正しい情報としてしまうのだ。

 この一番の犠牲となったのが、元CIA長官のジョージ・テネットだ。彼は、大統領、副大統領、国務長官など数人だけが出席した会議で、イラクが大量破壊兵器を有し核兵器を持とうとしている情報は「Slum dunk(絶対だ)」 と言ったとされている。

 テネットのこの「Slum dunk」発言は新聞、テレビなどで大きく報道された。

 そのテネットは97年CIA長官に就任してから04年に組織を去るまでの活動を語った回想録を出版している。

 ほかでは知ることのできないCIAの活動や、ブッシュ政権との関わりなどが詳細に述べられている。テネットはこの本でいかに「Slum dunk」が全く違った意味となり、政権に利用されてしまったかを回想している。そして、ブッシュ政権は自分の発言などなくとも戦争をやることを最初から 決めていたと語っている。

 「私の知る限り、イラクからの差し迫った脅威について政権内での真剣な議論は存在しなかった」

 「時には、戦争を始めてどのくらいの時期にイラクの通貨を変え、ディナール紙幣には誰の肖像を使ったら良いかなどの不可思議な細部にわたる議論がなされていた」

 テネットのこれらの言葉は、イラク戦争に限らず国が「戦争」に向かう時、情報がどう処理されていくかを教えてくれる。


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