2009年8月12日水曜日

asahi shohyo 書評

星野リゾートの事件簿 [著]中沢康彦

[掲載]2009年8月9日

  • [評者]清野由美(ジャーナリスト)

■事件が新しいサクセスを生む

  星野リゾートは長野県の軽井沢に本拠を置く。1991年に社長に就任した4代目の星野佳路(よしはる)が、地場の老舗(しにせ)ホテルから全国的なリゾー ト企業へと飛躍させ、注目を集めている。その組織術を伝えるのが本書。という場合、よくある手法が社長自身の「自分語り」。が、ここでの主役は同社が運営 するホテルや旅館のスタッフたち、さらにいえば彼らが直面した「事件」となっているところがミソだ。

 凋落(ちょうらく)した老舗旅館の再生や、超大型スキーリゾートの夏場の客足確保から、焼酎の水割りを注文した客にお湯割りを 出してしまうことまで、事件は大小さまざま。それらを乗り越えていく現場スタッフの姿に身近なドラマがあり、折々に盛り込まれる社長の判断がユニークだ。

 たとえば、客ではなく、自分たちの都合を優先させる古参スタッフの振る舞いに苦悩した女性社員が、意を決して問題提起の全員メールを打ったところ、星野からは真っ先に「負けるな。頑張れ、新人!」と返信が届く。

 「事件こそが新しいサクセスストーリーを生む」と、星野の姿勢は明快だ。トラブルは社長を始め関係者全員が共有し、解決は現場 にまかす。「言いたいことを言いたいときに言いたい人に言えるよう」にする。その中で奮闘するスタッフのドラマを通じて、最終的に星野の「器」がまんまと 浮かび上がってくる。うまい構成だ。

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