09総選挙・農業再建—減反見直しからの出発
日本農業の明日が危うい。再生に向けて思い切った手を打たないと、荒廃への坂を転げ落ちるだろう。
全国で耕作放棄地が増え、水田が荒れ地になってゆく。その面積は今や埼玉県と同じ広さだ。若者が減り、農業人口の7割超を60歳以上が占める。
世界市場での穀物高騰は経済危機で鎮まったが、新興国の経済成長や人口増を考えれば、再燃する可能性もある。その時に頼りになるのは国内農業だ。しかし、今のままでは立て直しの機会すら失いかねない。
日本の農業を衰退へと導いたのは、40年間も続く減反政策である。
生産調整で米価を維持し、農家の収入を確保する目的だ。貿易交渉でコメ関税の大幅引き下げを受け入れず、海外諸国から批判にさらされているのも減反による米価維持策が原因である。
こうした政策は、高いコメを買わされる消費者の負担の上に成り立ち、農林族議員と農協、農林水産省の利権維持に役立った。だが、コメの需要はますます減り、国内農業を守るはずの減反・米価維持策が、目的とは反対の役割を演じてしまっている。
縮小均衡のコメ政策では未来を描けない。農業の将来を考えるなら一刻も早く減反をやめ、農業を成長産業に変える道に踏み出すべきである。
生産と輸入の自由化を進めれば、米価は下がる。その場合、欧米のように農家経営を戸別所得補償で支えればいい。納税者負担は増えるが、消費者には喜ばれ、農家の生産意欲は高まる。
この問題を巡る自民党と民主党の違いは鮮明だ。自民は「生産調整を堅持する」(谷津義男・党総合農政調査会長)とし、民主は「減反廃止をめざす」(筒井信隆ネクスト農水相)。
民主党はコメを販売する農家への戸別所得補償制度の創設案も打ち出した。2年前の参院選で、農業票目当ての「バラマキ」との批判も浴びた政策だ。だが今 回は、将来の減反廃止をにらんだ工夫の跡がある。生産調整に参加しない農家には所得補償をしない代わり、自由にコメを作る権利を認めるという「減反選択 制」だ。
政府・自民党も石破農水相を中心に減反選択制を検討していた。農業の現状と将来に危機感を抱いていたからだ。だが、米価維持にこだわる農林族議員の猛反発で頓挫し、政権公約に盛り込めなかった。
改革志向が明確であるにもかかわらず民主党案の問題点は、所得補償の対象を競争力の乏しい零細農家にまで広げてしまったことだ。このため毎年度の必要予算額は1兆円に膨らんだ。
地域の担い手となる意欲的な農家に農地を集めて効率化と生産拡大を進めたい。税金を大切に使うためにも、ばらまき型でない所得補償のやり方を検討しなくてはならない。
甲子園開幕—大銀傘に新たな歴史を
85年前の完成時のように、内野席全体を覆うよう翼を広げた大銀傘に「栄冠は君に輝く」が響いた。
球場本体の改修工事を終えた甲子園で、全国高校野球選手権大会が開幕した。今年で91回目。1915年の第1回大会からは、戦争による中断を挟み95年目になる。
初出場の佐賀代表、伊万里農林の吉永圭太主将は「91回受け継がれてきた伝統のバトンを未来に向けて力いっぱい伝えていくことを誓います」と選手 宣誓した。3日目に同じ初陣の横浜隼人と戦う。両校を含め、今年は13校もの初出場校が集った。70年ぶりの兵庫・関西学院など古豪も多く、高校野球の広 がりを象徴する多彩な顔ぶれだ。
その伊万里農林の大坪慎一監督は今春、塾の「生徒」になった。
「甲子園塾」という。日本高校野球連盟が昨年度から始めた若手指導者の育成講座だ。元箕島監督の尾藤公さん、箕島と79年夏に延長18回の死闘を演じた星稜の元監督、山下智茂さんらが講師である。
大坪さんが感銘を受けたのは、山下さんのノックだ。試合前の7分間で百数十本を放つ速射砲のようなノックは、かつて甲子園の名物だった。
だが、その神髄は速さではなく「対話」だった。兵庫県内の高校であった実技指導で、山下さんは球を打ちながら頻繁にほめ言葉をかけた。集中力が切 れると見ると、生徒を集める。緩急の妙。「ノックで生徒の心を開かせる」のだという。初めてのノックなのに山下さんの教え子のように見えた。
大坪さんは33歳。03年に伊万里農林の教員になり、野球部を率いた。戦えばコールド負けというチーム。猛練習を課し、ボイコット騒ぎも起きた。
「技術は大事。でも、最後は心の指導なんだと気づいた。塾で、そのことに確信を持てました」。山下さんはこう言ったという。「人間を磨けば、甲子園の方が迎えに来る」。春以降、ノックに一層気持ちをこめた。成果は夏、見事に表れた。
甲子園を夢見ながら毎年、無数の高校が敗れ去る。それでもまた、挑む。一世紀に及ばんとする歴史と、人から人へと受け継がれる伝統。そして、それをさらに乗り越えようとする新しい力とのしのぎ合いが、人々を高校野球に引きつけてきたのだろう。
少子化の中でも球児は増え続けている。高野連の加盟校部員数調査で、今年度は最多の16万9449人。12年連続の増加である。3年生まで部活動を続ける率も83.1%と過去最高だ。
ただ、野球留学や特待生問題など課題はまだ多い。奥島高野連会長を中心に、100年の区切りへ向け、高校野球のあるべき姿を問い続けてほしい。
新装なった甲子園で迎える、初めての夏。選手たちが新たな歴史を刻む。
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